特集

月刊「クリンネス」より

バイオセーフティの基礎知識

シリーズ⑦ 遺伝子組換え生物の安全な使用のための法規制 
理化学研究所 新興・再興感染症研究ネットワーク推進センター
神田忠仁

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月刊クリンネス

試験管内でDNAを加工する遺伝子組換え技術は急速に進歩し、現在では医薬品の原料を産生する微生物や収量の多い農作物などが実用化されています。しかし、組換え微生物が新たな病原性を獲得したり、組換え植物が自然環境を破壊する可能性もあります。安全に組換え生物を使用するために、「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」が作られています。法律では、組換え生物を環境に放出して使う第一種使用と、拡散防止措置を執った作業区域(実験室)内で使う第二種使用にわけて規制しています。
第一種使用は、組換え植物の畑での栽培や、組換えウイルスを生ワクチンとして使う場合です。使用に先立って、環境への悪影響が回避できることを説明した生物多様性評価書を主務大臣に提出し、承認を得なければなりません。組み換え生物を輸出して、第一種使用を目的とする場合は、相手国の承認が必要です(カルタヘナ議定書による国際取り決め)。
第二種使用は、実験開発段階での使用(文部科学省が担当)と産業での使用(農水、厚労省等が使用目的別に担当)にわかれます。実験開発段階での使用では、組換え生物の病原性に応じて、4段階の拡散防止措置(P1からP4)が決められています。P1は理科の実験室の出入り口と窓を閉めた状態に近く、P2は安全キャビネットや高圧蒸気滅菌器の設置、P3は実験室の入り口に前室を設置し、実験室内を陰圧に保つ構造が求められています。
文部科学省では、哺乳動物等に病原性のない生物をクラス1、病原性が低い生物をクラス2、病原性が高いが伝染性が低い生物をクラス3、病原性も伝染性も高い生物をクラス4と分類し、それぞれ、P1、P2、P3、P4の拡散防止措置を執るように求めています。例えば、動植物の個体はクラス1で、はしかや風疹のウイルス、サルモネラ菌などはクラス2、HIVはクラス3です。組換え生物は、宿主となる生物に、別の生物(核酸供与体)由来の遺伝子(供与核酸)を導入して作るので、宿主と組換え生物の性質の違いは、供与核酸の性質に依存します。クラス2の宿主(P2で使用)にクラス3の核酸供与体由来の核酸が導入された組換え生物は、病原性が高くなると考え、P3措置が必要となります。ただし、供与核酸が宿主の病原性に影響を与えないことが明らかな場合は、宿主のクラスに応じた措置で良いことになっています。また、組換え動物には逃亡防止と排泄物の処理が、組換え植物には花粉の飛散防止と媒介昆虫の侵入防止措置が必要です。
宿主または核酸供与体が分類表に告示されていない場合や、宿主がクラス3の生物の場合、組換えウイルスが増殖能を持つ場合などは、拡散防止措置の妥当性を文部科学大臣に申請し、確認してもらう必要があります。
各事業所では、法律や遺伝子組換え技術、微生物の病原性などの知識を持つ専門家による安全委員会を設置し、科学的な検討に基づいて拡散防止措置のレベルを決めなければなりません。また、実験室や安全機器の点検と保守、組換え生物の使用や保管の記録なども事業所の責任です。
産業利用では、性質の良くわかった組換え生物の使用が前提なので、P1に似た作業区画を設定し、その中ですべての作業(培養、滅菌、保管など)ができれば良いことになっています。安全委員会や管理体制の構築などは実験開発段階の使用と同様です。