特集

月刊「クリンネス」より

海外赴任に伴う感染症対策

シリーズ④ 下痢性疾患に対する対策 
/東京都保健医療公社 豊島病院 感染症内科
相楽裕子

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月刊クリンネス

 発展途上国への旅行に伴う感染症の中で最も危険が大きいのは旅行者下痢症で、発生率が20%からときに80%にも及ぶことがあります。定義としては、訪問国に到着後2〜3日から帰国後およそ1〜2週間以内に発症する下痢症で、発熱、嘔吐、腹痛、しぶりはら、血便のいずれかをともなうものです。

危険地域と病原体

 国内の調査では、推定感染国はインド、インドネシア、タイなど80%あまりがアジアで、日本人の渡航先がアジア中心であることと関連づけられています。旅行医学の専門家は、リスクによって世界の国々を次の三つのカテゴリーに分けています。
①低リスク国(発生率8%未満):米国、カナダ、西欧・北欧諸国、オーストラリア、ニュージーランド、日本
②中リスク国(発生率8〜20%):東欧諸国、南アフリカ、一部のカリブ海諸国
③高リスク国(発生率20〜90%):大部分のアジア、中東、アフリカ、メキシコ、中米、南米の諸国
 訪問地域、旅行目的・スタイルによりますが、2週間以内の旅行では毒素原性大腸菌を中心に、カンピロバクター、赤痢菌など細菌が圧倒的に多く、2週間以上では、ジアルジア(ランブル鞭毛虫)、赤痢アメーバなどの原虫や腸チフス・パラチフスが加わります。

危険因子

 旅行者下痢症の大部分は、食品・水媒介感染症です。水道水を含む水、氷、ジュース、生野菜、生鮮または加熱不十分な魚介類の飲食、屋台などでの食事、川や湖、場合によってはプールでの水泳もリスクになります。渡航目的が仕事やボランティア活動などの場合、現地社会との交流が深くなるため、感染リスクが高くなります。バックパッカーのような旅行スタイルは短期間でもツアー旅行より感染リスクが高くなりますし、地方に滞在した場合も同様です。易感染性要因として胃の低酸・無酸状態が最大であり、慢性胃疾患患者、高齢者が該当します。

治療

 水様便の場合はWHO処方のORS(oralrehydration salts) などによる経口補液が第一で、大人では原則、1日2リットル必要です。絶食はせず、食べられるものを食べてください。尿量の減少、嘔吐、腹痛や血便のある場合は迷わず医療機関を受診してください。急性疾患は早期対応が大切です。

予防

 「boil it, cook it, peel it, or forget it(水は煮沸して、肉や魚は加熱して、果物は自分で皮をむいて食べる、できなければ食べるのをあきらめる)」という予防策が有名です。難しいですが、これを守れば感染を減らせます。特に日本人の大好きな刺し身や寿司にはご注意ください。
 赴任先の感染症情報を外務省や検疫所のホームページなどで確認しておくことも大切です。対象国では腸チフスワクチンをおすすめします。