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第3回 食品の変色事例の原因菌の特定

独立行政法人 産業技術総合研究所
総括研究主幹 花田智

微生物による食品変色事例(2)
-うどんが青紫色に-

図1

 ナスや赤ジソなど植物には青紫色の色素が存在しており、これらはみなアントシアン系色素です。植物とは異なり、細菌の中で青紫色の色素が生産されるのはまれです(インディゴ系の青色色素の生産がまれに見られることがあります)が、ある一握りの細菌が特殊な青紫色の色素を生産することが知られています。この特殊な青紫色の色素とはヴィオラセインと呼ばれる色素です(図1)。ヴィオラセインはクロモバクテリウム ヴィオランセウムという細菌から初めて発見された青紫色素ですが、それに近縁なジャンチノバクテリウム属、イオドバクテリウム属細菌もこの色素を生産することが知られています。

図2、図3

 図2に示す写真は、学校給食などで目にするうどん(ソフト麺)、表面がところどころ青紫色に変色しているのが見えるでしょうか。変色した検体(=うどん)の成分に合わせ、5%小麦粉を添加した寒天培地を用いて培養を試みたところ、青紫色のコロニーが形成されました(図3)。分子系統学的解析(第二回コラム参照)の結果、分離培養された微生物がジャンチノバクテリウム属細菌であることがわかりました。

 ヴィオラセインはメタノールに可溶で、579ナノメートルの波長の光を吸収します。うどん表面の着色が本菌株のヴィオラセインによることを確かめるため、双方からの色素の抽出と分光分析を行いました。両サンプル(うどん検体と分離菌株)の青紫色素はメタノールによりほぼ完全に抽出され、分光解析の結果、双方の抽出物ともヴィオラセインであることが明らかとなりました。つまり、うどん(ソフト麺)の変色はヴィオラセイン生産細菌(ジャンチノバクテリウム属細菌)が表面で増殖したことが原因であったのです。
 なお、同様の紫変が「おにぎりのご飯」でも見られることがあります。分析の結果、これもまたジャンチノバクテリウム属細菌によるヴィオラセインの生産が変色の原因であることが明らかとなっています。このことから、うどん(ソフト麺)で見られたヴィオラセイン生産細菌による食品の変色は希なケースではなく、ご飯などの他の食品においてもしばしば発生している事例と言えるのかもしれません。ゆかり(シソのふりかけ)を振りかけた憶えもないのに、おにぎりがところどころ青紫色になっていたとしたら、それはジャンチノバクテリウム属細菌である可能性が濃厚です。まあ、数日間適度な温度で放置されていたおにぎりであれば……という話ではありますが。

花田智

著者略歴

花田 智(はなださとし)

独立行政法人産業技術総合研究所 生物プロセス研究部門 総括研究主幹。理学博士。「ジェマテモナデテス門」という生物界において全く新しい「門」を発見した細菌系統分類学者でもある。研究の合間に劇団で脚本家・演出家としても活躍し、数々の賞を受賞。また、SF小説も執筆する多彩な才能の持ち主。