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第5回 食品の変色事例の原因菌の特定

独立行政法人 産業技術総合研究所
総括研究主幹 花田智

微生物による食品変色事例(4) -カロテノイドによる変色-

図1 開缶後、保存されたコーンの缶詰がピンク色に変色した事例

 細菌のみならず酵母やカビの中でもカロテノイドを生産する微生物は数多く知られています。そのような理由からか(前回のちくわの事例だけではなく)カロテノイドが原因の変色事例は多数報告されています。調査したものの中にも「開缶後、保存されたコーンの缶詰がピンク色に変色した」といった事例がありました(図1)。調査の結果、グラム陰性桿菌であるエルビニア ペルシシナがシロップ内から分離されました。この細菌はピンク色のカロテノイドを多量に生産することが知られており(なお、種名の「ペルシシナ」は、ラテン語で「桃色の」という意味です)今回は、大量のカロテノイドを含有するこの細菌が増菌した結果、コーンが浸っているシロップが濃いピンク色に変色してしまったのです。

図2 塩漬けキュウリの塩水がピンク色に変色した事例

 また、「塩漬けキュウリの塩水がピンク色に変色した事例」もありました(図2)。細菌の多くは塩漬けのような高い塩分濃度環境では生育できません(野菜や魚、肉類等の食品を長期保存するために塩漬けにする理由のひとつは、細菌の増殖を抑え、腐敗を進行させないようにすることです)。この様な環境では細菌でない他の微生物が優占する場合があります。この変色事例において検出されたのも、ザイゴサッカロマイセス ロウキシィという耐塩性酵母でした。この塩性酵母は、赤色酵母であるロドトルラ属と同様に、赤色のカロテノイドを生産することが認められました。塩漬けキュウリの塩水中でこの酵母が増殖した事により、ピンク色の変色を引き起こしたものと考えられました。

脚注

 食品変敗の原因菌特定の詳細に関しては、「微生物コントロールによる食品衛生管理 −食の安全危機管理から予測微生物学の活用まで−(株式会社 エヌ・ティー・エス)」をご一読ください。本書の第2編第3章の拙文にて、ここに上げた変色事例を含む食品変敗・変色の事例だけではなく、その原因菌の分離方法や分類同定、および色素分析方法についても詳しく解説されているので、お手にとっていただけるなら幸甚です。

著者略歴

1996年 東京都立大学(現、首都大学東京)大学院理学研究科博士課程修了。博士(理学)。
現在、独立行政法人 産業技術総合研究所 生物プロセス研究部門 総括研究主幹。筑波大学連携大学院 教授。首都大学東京 客員教授。専門は細菌系統分類学、環境微生物学。研究の合間にSF 小説も執筆している。
http://www.hayakawa-online.co.jp/products/books/124660.html

花田智

著者略歴

花田 智(はなださとし)

独立行政法人産業技術総合研究所 生物プロセス研究部門 総括研究主幹。理学博士。「ジェマテモナデテス門」という生物界において全く新しい「門」を発見した細菌系統分類学者でもある。研究の合間に劇団で脚本家・演出家としても活躍し、数々の賞を受賞。また、SF小説も執筆する多彩な才能の持ち主。