IKARI イカリ消毒株式会社

特集TOPICS

プロフェッショナルに訊く 第14回 ライトトラップ(LED誘⾍灯)の誘⾍効果と導⼊のメリットについて

1. 捕虫器のLED化が進む背景

水俣病の原因となった水銀を包括的に規制する「水銀に関する水俣条約」により、一般照明用の高圧水銀ランプについては水銀含有量に関係なく、2020年12月31日以降の製造、輸出入が禁止となった。その一方で、現在市販されている蛍光ランプやHIDランプなどの水銀使用ランプについては、すでに水銀含有量の基準をクリアするなど規制対象の製品は存在しないため、製造、輸出入禁止の規制を受けることがなかったが、2023年11月に行われた「水銀に関する水俣条約」の第5回締約国会議において、直管蛍光灯の製造と輸出入を2027年末までに禁止することで合意された。2025年末での製造・輸出入禁止がすでに決まっている電球形蛍光灯と合わせ、すべての一般照明用蛍光灯の製造が終わることになる。

これに先立ち、主な照明メーカーは蛍光灯照明器具の生産をすでに終了しており、LEDの急速な普及に伴って蛍光灯の生産・販売も減少傾向にある。
(A社:2017年3月製造を中止、B社:2019年3月すべて生産終了、C社:2019年4月生産終了など)

建築物における有害生物管理では、IPM(Integrated Pest Management:総合的有害生物管理)の考え方が一般的となり、有害生物の生息密度調査が広く行われ、飛翔性昆虫の調査には捕虫器(ライトトラップ)が用いられている。捕虫器(ライトトラップ)には近紫外線にピークを持つ誘虫ランプを使用するが、この誘虫ランプは特殊用途用ランプとして「水銀に関する水俣条約」の規制対象外のため、現在でも蛍光灯が多用されている(写真1)。しかし今後、器具の問題からもLEDへの切り替えが必要となる。

(写真1)蛍光灯タイプの捕虫器(ライトトラップ)(業務用捕虫器「オプトクリン7」)(写真1)蛍光灯タイプの捕虫器(ライトトラップ)
(業務用捕虫器「オプトクリン7」)

現在、専門業者(PCO)が用いる捕虫器(ライトトラップ)においてもLEDを光源とするものがいくつか市場に投入されている。イカリ消毒でも、2017年よりLED誘虫ランプ『エコトロン・ルアーver.1』(以下ver.1)を搭載した業務用捕虫器「LEDオプトクリン7」(写真2)の販売を開始した。2017年のver.1から2018年のマイナーチェンジ(エコトロン・ルアーver.1.02(以下ver.1.02))まで点灯寿命は20,000時間であったが、2021年の改良によって点灯寿命50,000時間を達成した。今回改良品『エコトロン・ルアーver.2』の性能について報告するとともに、蛍光灯からLEDへの変更が可能となっている照明についても紹介する。

(写真2)LEDタイプの捕虫器(ライトトラップ)(エコトロン・ルアーver.2を搭載した業務用捕虫器「LEDオプトクリン7」)(写真2)LEDタイプの捕虫器(ライトトラップ)
(エコトロン・ルアーver.2を搭載した業務用捕虫器
「LEDオプトクリン7」)

2. エコトロン・ルアー ver.2の特徴

エコトロン・ルアーver.2(以下ver.2)の点灯寿命は50,000時間(約5.7年相当 ※1日24時間点灯)で、従来の20W蛍光管誘虫ランプ(オプトクリンランプ)と比べて、約10倍の点灯寿命である。蛍光灯では定期的なランプ交換が必要となり、その作業には落下破損のリスクもある。LED化によってその交換は減少するため、メンテナンス時間とリスク低減が期待できる。加えて、エコトロン・ルアーに用いている特殊カバーは高効率の紫外線透過性能で黄変劣化せず、万が一落下させても飛散のリスクもない。ver.1およびver.1.02を用いた業務用捕虫器「LEDオプトクリン7」の消費電力は18Wであったが、ver.2では16Wまで低下している。従来の20W蛍光管誘虫ランプを用いた捕虫器(ライトトラップ)の消費電力は24Wであり、LED化によって約33%の省エネが期待できる。多くの昆虫類は近紫外線によく反応するが、一部の分類群では可視光もよく利用することが報告されている。エコトロン・ルアーは紫外光から可視光までの波長を組み合わせることで、飛翔製昆虫の捕獲数と捕獲種数の向上を図っている。

3. ver.2の捕虫性能

3.1 材料と方法

供試虫はイカリ消毒で累代飼育しているイエバエとクサビノミバエを用いた。

<試験1>

単独試験として、試験場所(4.8m×8.6m×高さ2.7m 25℃ 全暗)の短辺中央にver.1.02 を搭載した業務用捕虫器「LEDオプトクリン7」を光源が床面から1.5mの高さになるように設置した。供試虫は捕虫器(ライトトラップ)対面の床から各100個体ずつ同時に放虫し、24時間後に業務用捕虫器「LEDオプトクリン7」に捕獲された個体を計数した。試験は3回反復した。対象区として、20W蛍光管誘虫ランプを搭載した業務用捕虫器「オプトクリン7」でも同様の試験を実施した。

<試験2>

2者選択試験として、同試験場所の短辺の両端にver.2とver.1.02を搭載した業務用捕虫器「LEDオプトクリン7」を光源が床面から1.5mの高さになるようにそれぞれ設置した。供試虫は捕虫器(ライトトラップ)対面の床から各100個体ずつ同時に放虫した。試験は4回反復し、反復ごとに光源の位置を入れ替えた(写真3)

(写真3)試験場所と光源設置のイメージ(写真3)試験場所と光源設置のイメージ

3.2 結果

試験1のver.1.02を搭載したトラップに捕獲されたイエバエは70.7±4.0個体、クサビノミバエは52.7±7.0であった。 一方、20W蛍光管誘虫ランプを搭載したトラップに捕獲されたイエバエは83.3±3.1個体、クサビノミバエは53.0±6.1個体であった。いずれの供試虫においても、捕獲数はver.1.02と20W蛍光管誘虫ランプとの間に有意な差はなかった(図1)

(図1)試験1(図1)試験1

試験2のver.2を搭載したトラップに捕獲されたイエバエは43.3±3.6個体、クサビノミバエは、35.8±9.7個体であった。 一方、ver.1.02では、イエバエは41.0±5.7個体、クサビノミバエは29.0±2.2個体であった。いずれの供試虫においても、捕獲数はver.2とver.1.02との間で有意な差はなかった(図2)

(図2)試験2(図2)試験2

試験1は、実際の現場にて光源の種類(トラップ)を変更した場合を想定している。この試験の結果から、20W蛍光管誘虫ランプからver.1.02に変更した場合に捕獲数に有意な差はなく、生息密度調査の継続が可能である可能性を示している。 試験2は新旧の光源を直接比較するものであり、ver.2は捕獲性能を維持しながらver.1.02と比べて、高寿命化・省エネ化できたことが明らかとなった。

4. LED化されている防虫対策商品

昆虫類は近紫外線に誘引されることから、灯火飛来を制御するためにライトコントロールと呼ばれる紫外線制御がしばしば行われている。具体的には、照明から昆虫類が反応する波長を選択的に制御するために、窓用フィルム、ビニールカーテン、防虫ランプなどが商品化されている。従来の蛍光管防虫ランプは紫外線を制御するためにフィルムやスリーブが付けられていた。白色LED照明は400nm以下の短波長は照射されていないことから防虫効果が期待される。しかし、一部の分類群では白色蛍光灯と白色LED照明との飛来量に有意な差がないこともあるため、生息密度調査によって防除対象種を正しく理解することが必要である。防虫用照明として有色LED(黄色、緑色)も市場投入されており(写真4)、白色LED照明よりも高い飛来抑制効果を有することが報告されている。

(写真4)防虫用照明(エコトロン・ガード)(写真4)防虫用照明(エコトロン・ガード)

5. 今後の展望

屋外から飛来、屋内に侵入する害虫対策として、
① 発生源対策
② 接近防止
③ 侵入防止(侵入前に駆除)
④ 侵入したものを早期捕殺
があげられる。


現在、③の対策に関する提案が非常に少ない。先に述べた通り、従来型の単純な紫外線制御のライトコントロールで限界を迎えている分類群があり、新たな対策として再検討する価値は高い。実験的には強光の誘引効果と発生源に近い場所での捕獲の有効性が報告されている。またイカリ消毒では、LEDを用いて本対策を目指した研究・開発を実施し、ガーデンライト型捕虫機として商品化しているが(写真5)、これにとどまらず、より効率的なものを開発していきたい。

(写真5)ガーデンライト型捕虫機(Exスイーパー)(写真5)ガーデンライト型捕虫機(Exスイーパー)

参考文献

紙パルプ技術協会,紙パ技協誌,2022年11月号(76巻11号),p38-40.