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プロフェッショナルに訊く 第6回 食品製造現場におけるカビ制御-カビクレーム防止の考え方と対策のポイント-

はじめに

消費者の食品への安全性や衛生に対する意識の高まり、食品製造や流通技術の進歩による食品の長期保存・流通にともない、食品のカビ発生による事故など、カビが引き起こすトラブルが増加している。特に、カビによる問題は複数の製品に発生するおそれがあるため、製品回収に発展するケースも少なくない。このように、カビ問題が企業に与える影響も年々大きくなっており、たかが「カビ」と侮ることができない状況になってきている。食品におけるカビの対策は、食中毒菌などの微生物制御の3原則「つけない」・「増やさない」・「やっつける」が基本となるが、カビの生態的な特徴から、細菌とは対策のポイントが異なる。そこで、本稿では食品製造現場で問題となるカビについての対策を考えるうえで製造現場の方々が知っておくべき、カビクレームの特徴、対策のポイント、予防策へのステップなどについて解説する。

1. カビによるクレームの特徴

食品はカビにとって生育に適した基質となるため、多くの食品においてカビが問題を引き起こす危険性がある。カビは細菌とは異なり、発育するスピードは遅いが、発育すると肉眼で確認できるため、製品として流通した後に消費者から「カビの発生」としてクレームになる場合がほとんどである。また、カビは一度発育して菌糸の塊となると、形状が崩れにくくなるため、製造環境やライン周辺などで発生したカビの塊が「異物」として食品に混入する事例が多いこともカビクレームの特徴といえる(写真1)

〈 写真1 カビが塊状になった異物(再現品) 〉

カビクレームが多い食品には傾向が見られ、水分が比較的少ない食品(水分活性が低いもの)や比較的保存性が高い食品(消費までの期間が長いもの)、農産物を原料とする食品などが挙げられる。主な種類としては、パンや菓子をはじめとする加工品、乾燥食品、高糖分・塩分食品、酸性食品、乳製品などにカビクレームが発生しやすい。一方で、発生しやすいカビの種類も食品毎に傾向が見られ、食品に含まれる水分(水分活性)によって、発育するカビに特徴がでてくる。この特徴を知っておくことは、自社の製品で発生しやすいカビを把握するためにも極めて重要なことと言える。食品に発生しやすいカビの種類としては、クラドスポリウム(クロカビ)、ペニシリウム(アオカビ)、アスペルギルス(コウジカビ)が多く、事故原因の大半を占めている。このように、問題が発生しやすいカビの種類には傾向が見られるため、製品毎に問題カビの種類や製造現場でのカビの分布を把握しておくことは、カビ対策を進めるうえで極めて重要な情報となる。

2. 自社製品で問題となるカビの把握

製造現場においてカビの制御方法を検討していくためには、まずは自社製品で問題となるカビの種類を把握し、ターゲットとするカビの種類を絞り込み、現場の状況に合わせた対策の構築が必要となる。自社の製品毎に発生しやすいカビの種類を把握する手段としては、①過去のクレーム事例【過去にクレームが発生したカビの種類のデータを蓄積する。】②同様の商品での発生事例【カビに関する書籍や文献などを参考にする。】、③虐待試験により製品発生カビを確認する【製造環境に最終製品を暴露し(カビを強制的に汚染させて)、それを保存して発育するカビを確認する。また、窒素充填や脱酸素剤入の製品は、開封して保存し、発育してくるカビを確認する。】などの方法が挙げられる。さらに、発生したカビコロニーの数、カビが発生した位置(胞子が付着した箇所からカビが生えるため、汚染箇所の推定ができる)の確認も汚染原因の推定に重要な情報となる。

3. 製造現場におけるカビ汚染経路

カビは土壌をはじめとする自然環境中に多く存在しており、土壌には1g当たり104~106個のカビが含まれている。土壌から空気中に浮遊した胞子が、工場の窓や扉から風に乗って侵入するだけでなく、従事者や資材などに付着して持ち込まれる。工場内へのカビの侵入ルートは無数に存在しており、一般的な食品工場でも床や壁などにはカビの胞子が付着しており、空気中にもカビが浮遊している(写真2)

〈 写真2 食品製造現場から検出されたカビ(上段:浮遊カビ、下段:付着カビ) 〉

工場内に入ったカビは室内の塵埃などにまぎれて生き残り、増殖の機会を待っている。カビが工場内に侵入しただけでは大きな問題は引き起こさないが、水分や栄養などの増殖条件が整うと、カビが増殖して大量の胞子を形成する。さらに大量の胞子が工場各所へ拡散し、工場内のカビ汚染度が高まると、製品のカビ汚染事故が発生しやすい危険な状況に陥る(図1)

〈 図1 食品製造現場に存在するカビの汚染経路〉

また、ほとんどのカビは熱に弱いため、加熱工程のある食品では、原料由来を含む加熱前の汚染カビは加熱工程で死滅し、最終製品に問題を引き起こすことはほとんどない。カビ対策においても「食品を十分加熱する」ことは重要な制御方法となる。しかし、加熱工程のある食品でもカビクレームが発生している。このような食品の場合、加熱後から包装するまでの間に、製造環境に存在するカビが製品を汚染して発生した事例がほとんどである。したがって、製造現場に存在するカビの汚染度を低く保ち、製造過程でカビを「つけない」ための汚染防止対策が最も重要となる。

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