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プロフェッショナルに訊く 第7回 カビ汚染防止対策の考え方と現場でのチェックポイント

カビ汚染防止対策の考え方と現場でのチェックポイント

カビ汚染を防止するためには製造環境に存在するカビの汚染ルートを断つことが重要で、製品への汚染箇所を考慮して、いくつかの方法を組み合わせながら対策を検討していく必要がある。具体的には、①屋外から場内に侵入・持ち込まれるカビを最小限にする(カビの侵入を防止する)、②場内に侵入してしまったカビを発生させない(カビの発生を防止する)、③場内で侵入・発生したカビが各所に広がらないようにする(カビの拡散を防止する)、④場内に侵入・発生したカビは速やかに除去する(汚染・発生したカビを除去する)の4つの対策が挙げられる。
特に、カビは一度環境内に発生してしまうと、殺カビ処理などの除去費用がかかるだけでなく、飛散した大量の胞子により、製造環境が広く汚染され、事故につながる危険性が高まる。したがって、カビが発生してから対処するのではなく、日常的に製造現場での管理状況をチェックしながら、環境中のカビ汚染度に異常がないかを検査により監視していくことが重要となる。また、流通後の製品中で問題カビが発生しないよう「製品の保存性」を考慮した商品設計(包装方法・賞味期限設定等)を実施し、製品自体のカビ対策も併せて進めておくことも重要となる。ここでは、製造現場での対策について、現場で確認すべきチェックポイントの例を紹介する。

1. 対策①:工場内へカビの「侵入を防止する」

場内にカビが侵入してくるルートは無数に存在しており、常に侵入してくる危険性がある。屋外の土埃や外気には多くのカビが存在しており、施設の窓やドア、搬出入口等を開けたままにしておくと外気とともにカビが場内に入ってくる。また、場内が陰圧状態になっていると壁や窓、シャッターなどの隙間から外気とともにカビが常に流入しやすい状態になり、工場内のカビ汚染度も高くなる。また、外気からだけでなく、場内に持ち込まれる資材の外装や製造従事者の体や靴に付着して持ち込まれるケースも少なくない。さらに、野菜や穀類などの原材料に付着しているカビにも注意が必要となる。特に土が付いた野菜や果物、穀類等の原材料は、カビの汚染度が高いこともあるので、原料に含まれるカビの汚染度について確認をしておくことも重要である(写真1)。しかし、施設の気密性の確保や場内に取り込む空気を清浄化する等、施設外部のカビを侵入させない対策を講じてもカビの侵入を完全に防ぐことは不可能となる。工場内に侵入あるいは持ち込まれるカビの量を最小限にし、工場内のカビの汚染度を常に低い状態にするための環境づくりを目指していく。

〈 写真1 粉体原料に含まれていたカビ 〉

<工場内へカビの「侵入を防止する」ためのチェックポイント>

●施設周辺環境の管理

check_box外壁や屋外設備にカビが発生していない
check_box施設周辺に土埃が飛散しやすい場所がない(畑、グランド等、土埃が舞いやすい環境)

●建物の気密性の確保

check_box施設の開口部以外の壁や窓等の隙間が少なく、外気の流入している状態がない
 ※加熱工程等で排気が強くなると空気バランスが崩れ、施設全体が陰圧状態になりやすい

●工場内給気の清浄化

check_box工場内の清浄度に合わせたフィルター(中性能フィルター等)により給気を清浄化している

●資材、従事者からの持ち込み防止

check_box持ち込む資材に付着したカビを持ち込まないため、外装清掃している
check_box工場内で着用するユニフォーム、シューズで屋外にでていない

●原材料のカビ汚染度確認

check_box工場内で取り扱うすべての原料にカビ菌数が高い原料がないかを検査で確認している
 ※新しく取り扱う原料、粉体原料等は注意が必要

2. 対策②:工場内でカビの「発生を防止する」

工場内に侵入したカビは存在しているだけでは、大きな問題は引き起こさないが、増殖すると大量の胞子を飛散させ、製品にカビ汚染が発生しやすい危険な状態となる。食品製造現場という環境は、食品自体がカビの栄養源となるだけでなく、水や蒸気等により高湿環境となりやすいため、カビの発生しやすい環境といえる。工場内で水を多く使う場所や蒸気が出る場所では、高湿環境を好むカビが増殖しやすい環境となる。また、食品の残渣が溜まりやすい場所もカビが発生しやすい場所といえる。残渣から発生しているカビは、製品でも発生して問題を起こしやすいカビであることも多いため、問題が発生しやすい危険な状態となることがあるので注意が必要である(写真2)。工場内でカビが発生しやすく、汚染源になりやすい場所としては、下記のような条件が整う場所に集中しているので、工場内にカビの発生箇所がないかを日常的に点検するとともに、栄養源となる食品残渣の除去のための清掃や洗浄の他、結露や蒸気拡散などを防止し、工場内の湿度をコントロールすることで、カビが発生しにくい環境づくりを目指していく。

〈 写真2 ライン周辺(清掃しにくい場所)に溜まった残渣から発生したカビ 〉

<カビが発生しやすい場所>

<工場内でカビの「発生を防止する」ためのチェックポイント>

●工場内各所の結露発生防止(温度差と水蒸気のコントロール)

check_box製造時に発生する水蒸気を排出できている
 ※熱、水蒸気発生源付近には局部排気設備を設け、水蒸気の拡散を防止する
check_box温度差が発生する場所の結露対策が実施されている
 ※外気が接する天井や壁面、冷却水配管、冷蔵庫など温度差が生じる部分には、断熱材を使用し、表面の温度低下を防いでいる

●場内のドライ化

check_box床や製造機器は、洗浄後に水切りなどを行い、工場内を乾燥させている
 ※必要に応じて除湿機を使用している

●施設、設備のサニタリーデザインと適切な洗浄(清掃)

check_box施設や設備、製造ラインの周囲に残渣が溜まりやすい箇所がない

●カビが発生しやすい空調設備の清潔管理(空調清掃)

check_box空調設備の吹き出しやダクト内部、フィルター部分にカビの発生がない

●防カビ処理

check_boxカビが発生しやすい箇所に対して防カビ塗装等の防カビ処理を行っている

3. 対策③:工場内でのカビの「拡散を防止する」

工場内に侵入あるいは発生したカビは、空気の流れ、従事者や資材の移動にともなって場内各所にカビが拡散し、汚染が広がっていく。特に、カビの場合は、空気の流れに乗ってカビ胞子が広範囲に飛散する事例が多く、離れた場所から食品を汚染することもあるため、工場を点検する際は空気の流れを考慮して広範囲に対して目視確認が必要となる。また、製造中に従事者の各製造エリアへの往来が頻繁になると、ユニフォームや靴底についたカビが拡がっていくケースもよく見られる。特に粉体原料取り扱い時には、飛散した粉とともに原材料に含まれるカビが工場内に拡散してしまうこともある。
カビは細菌と異なり、胞子が飛散しやすいため、汚染源となっている発生場所が分かりにくくなるケースが多く、この特性がカビの汚染源の特定を難しくしている一因にもなっている。空気の流れや従事者の動線管理、原材料の取り扱いなど、カビが製造現場の各所に拡散しにくい環境づくりを目指していく。

<工場内でのカビの「拡散を防止する」ためのチェックポイント>

●給排気のバランス適正化

check_box工場内の汚染区域から清浄区域に空気が流れていない

●原材料の適切な取り扱い

check_box粉体原料の取り扱い場所で、粉体が周囲に飛散しないよう配慮している

●資材や従事者の動線管理

check_box工場内の汚染区域から清浄区域へ従事者や資材の往来がない

4. 対策④:工場内を汚染・発生した「カビを除去する」

工場内に侵入・汚染しているカビを常に除去し、増殖して問題となる前に、場内の清掃や洗浄、室内空気の清浄化により常に除去することで、場内に存在するカビ数を少なくしておくことが重要となる。また、場内にカビが発生してしまっている箇所を見つけた場合、製品にカビ汚染を引き起こす可能性がある箇所であれば、速やかに殺カビ処理によりカビを除去することが望まれる。

<工場内を汚染・発生した「カビを除去する」ためのチェックポイント>

●工場内の清掃、洗浄によるカビの除去

check_box日常的に実施できない清掃しにくい箇所を定期的に清掃している

●工場内空気の清浄化

check_box加熱後から包装されるエリアについては、必要に応じて空気を清浄化する装置を設置し、空気中のカビを除去している
(クリーンルーム・ブース、空気中のカビ除去、殺菌装置等)

●カビ発生箇所の殺カビ処理

check_boxカビが発生した箇所は速やかに殺カビ処理により除去している

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