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プロフェッショナルに訊く 第8回 食品工場で発生しやすいカビ汚染事例とカビ対策へのステップ

製造現場で発生しやすいカビ汚染事例

食品の製造現場で発生しやすいカビ汚染事例を通じて、カビが問題となりやすい製造現場の特徴、具体的な対策について紹介する。

事例1:施設や設備に発生したカビが空気を介して汚染する

【カビの胞子は発生箇所から空気の流れに乗って飛散し、離れた箇所から製品を汚染する】
カビは細菌と異なり、増殖すると多くの胞子を形成し、空気を介して広範囲に飛散する。製造環境中にカビが発生すると、産生したカビの胞子が大量に飛散し、製品を汚染する。最も発生しやすいカビ汚染事例である。食品工場では加熱工程で発生する熱を排出するための排気が強くなると、排気箇所を中心に空気の流れが発生し、工場全体が陰圧になることがある。そのような状態になると、工場各所の壁や天井の隙間などあらゆる箇所から空気が流入し、空気とともに製造場内にカビの胞子が流入してくる。天井裏に発生したペニシリウムやクラドスポリウムなどの浮遊しやすいカビの胞子が、天井裏の隙間から製造室内に流入し、加熱後の製品を汚染した事例もある(写真1)。カビの胞子が発生箇所から空気の流れに乗って、製品を汚染するため、汚染源が遠く離れているケースも少なくない。特に、加熱後に長時間放冷あるいは風で冷却している製品では問題が発生しやすい。飛散しやすいカビが問題となっている場合は、工場内で発生する空気の流れを確認し、汚染源となりやすい箇所がないかを確認しておく必要がある。工場の陰圧化を防止するため、排気が強い箇所には給気口をつけるなど、空気のバランスを調節しておく他、空気流入箇所の隙間埋めを行い、壁や天井などの隙間から空気が流入しないよう対策を講じておくことも重要となる。
その他にもカビの胞子が飛散する原因となる風や空気の流れが発生しやすい環境として、エアコン(スポットエアコン、パッケージエアコン)、集塵機の排気、コンプレッサー空気、加熱後製品の冷却機(空気で冷却するタイプ)等は注意が必要となる。

〈 天井と壁の隙間からの空気流入箇所(矢印:黒い汚れがスジ状に付着する) 〉

事例2:原料に含まれるカビが製品を汚染する

【原料に含まれるカビが工場内に拡散して製品を汚染する】
穀類や野菜などの植物性の原料には、カビが多量に含まれていることがある。原料に含まれるカビの多くは、最終製品として加工される過程で加熱により死滅するため、直接的に製品でカビが発生して問題を起こすことはほとんどない。しかし、小麦粉などの粉体原料は、計量や混合などの際に、周囲に飛散しやすく、原料に含まれるカビも一緒に飛散することがある。原料に含まれるカビが工場内に飛散して拡散すると、工場全体のカビの汚染度が高くなり、加熱後製品の汚染原因となることもあるので注意が必要となる。また、粉体原料が溜まった場所の清掃が不十分な状態で長期間放置されると、粉体に含まれるカビが増殖して汚染をさらに拡大することもある。
工場では複数の製品が製造されていることが多いが、他製品の原料中に問題を起こすカビが含まれるケースもある。このため、工場内で取扱っているすべての原料において、カビの汚染度を調べておくことが必要となる。原料に含まれるカビは見落としやすく、気付かないうちに工場内へカビが常に持ち込まれていることもある。従事者の往来とともに、原料粉体が加熱工程など広い範囲に飛散しているケースもあるため、粉体原料の取り扱い時は飛散を防ぐとともに、他のエリアに拡散しないよう注意が必要である。さらに、清掃不良箇所が長期間放置されないようこまめに清掃をしておくことが重要となる。

事例3:残渣に発生したカビが製品を汚染する

【残渣から発生するカビは、製品で発育しやすいカビ】
工場内の清掃が不十分な状態になり、残渣が長期間そのままになっているとカビが発生する。工場内の至る所に製品の残渣が堆積しているような工場では、多くの場所でカビが発生し、製品汚染が発生しやすい危険な状況に陥る。特に、残渣から発生したカビは、製品との相性が良いため、製品に発生しやすく、クレームにつながりやすいカビであることが多いため、注意が必要である。また、残渣が日常的に溜まっている製造現場では、工場内の湿度や気温が高くなる時期になると、残渣からカビが発生しやすくなる。これらの時期を迎える前に、日常的に残渣が溜まりやすい箇所を清掃し、工場内のカビ汚染度が高くならないように管理しておくことが重要である。
製造設備やライン付近の清掃が不十分な場所が多い(加熱工程以降は要注意)、製造場内に清掃しにくい(サニタリーデザインが悪い)箇所が多いような工場では、清掃不良箇所が長期間放置されないようこまめに清掃し、さらに、清掃しにくい場所は汚れが溜まりにくく、清掃しやすい構造へ変更していくこともカビ対策において重要となる。

事例4:クリーンブース、クリーンルーム内に発生したカビによる汚染

【クリーンエリア内で発生したカビが胞子を浮遊させて食品を汚染する】
クリーンブースやクリーンルーム内部でもカビが発生して、製品を汚染して問題を起こすケースがある。特に、クリーンエリア内で洗浄時に使用する水や蒸気により湿度が高い状態となると、フィルター吹き出し側や室内機械周辺にカビが発生してしまうことが多い。カビは胞子を飛散させるため、クリーンエリア内部でカビが発生すると胞子が飛散して、製品を汚染するケースがあるので注意が必要となる。空気の清浄度が高い場所として認識しているため、カビの発生を見落としてしまうケースがあり、クリーンルーム内部の目視点検や浮遊カビ検査を定期的に実施し、カビが発生していないかモニターしておくことも重要となる。

カビ汚染予防策へのステップ

カビは一度工場内に繁殖してしまうと、殺カビ処理などの除去費用がかかるだけでなく、飛散した大量の胞子により、製造環境が広く汚染され、製品への汚染事故につながる危険性が高まる。したがって、製造環境中にカビが発生してから対処するのではなく、日常的に工場内におけるカビの繁殖の有無を点検し、環境中のカビ汚染度に異常がないかを検査により監視していく。カビの汚染状況をもとに継続的な改善活動に取り組み、カビによる問題を発生させないための予防策を構築していくことが、対策の最終的なステップとなる(図1)。さらに、流通後の製品中で問題カビが発生しないよう「製品の保存性」を考慮した商品設計(包装方法・賞味期限設定等)を実施し、製品自体のカビ対策も併せて進めることが重要である。

〈 カビ汚染予防を目指した活動の一例 〉

<カビ汚染予防策へのステップ>

問題カビの低減に向けた総合的な改善活動の仕組みの一例