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プロフェッショナルに訊く 第2回 食品製造現場における総合的な異物混入対策の考え方と進め方

1. はじめに

海外では、法律で異物の大きさや量が決まっていることはあるが、日本では食品衛生法(令和2年6月1日施行)の第6条4項で「不潔、異物の混入又は添加その他の事由により、人の健康を損なうおそれがあるもの」について製造販売を禁止することを明記しており、異物としての記述は明確ではない。消費者の立場では、食品中の不快あるいは不安な要素、すなわちいつもと異なる「何か」を目で見て気が付いたものが『異物』なのであろう。
過去に食品事故事例として様々なものが申告されているが、食品中の異物は食中毒のように明らかな健康被害をもたらすものは少ないこともあり、法律上の区分で考えられるほど明確ではない。
異物の判断基準は、形や大きさ・性状・危険性で決められるものでなく、消費者側が異物だと感じるものすべてと考えなくてはならない。製造者側の概念で基準を考えるのではなく、消費者の目線に立って苦情の予測が的確に出来なければ、異物混入事故は必ず発生する。したがって、様々な種類の異物が混入する可能性を製造現場で的確に想定し、その混入する原因を偏りなく管理することが必要である。今回、異物混入対策について、マネジメントする立場でまとめてみた。

2. 検査依頼数から見る異物混入の現状

「食品の安全・安心」に関わる大きな事故・事件が世間を賑わせると、各種メディアによる報道が過熱し、消費者が食品への不安を募らせる。不安感を抱きつつ食品を食べるため注意深くなり、“いつもと違うもの”が目に付くと、「何だろう?大丈夫なのだろうか?」と異物混入苦情として申告するという状態に陥り、事故・事件が異物混入と関係のないことでもクレームとして製造元に連絡をする。これは、当社への異物検査依頼数が異物混入事件等の発生に大きな影響を受け、局所的に増加していることからも推測できる(図1参照)。また、ひと昔前まで、異物は一見して分かる大きな物やイメージの悪い物が目立ったが、近年では目に見えるかどうかの小さなものが著しく増加している。このような小さな異物は一目で判断できないため、分析・同定の専門業者への依頼も必然的に増える。

〈 図1 イカリ消毒㈱の検査部門に寄せられた異物検査 依頼数の推移 〉

3. 異物混入は何故減らないのか?

食品業界では異物混入事故を減らすために、ハード面・ソフト面でさまざまな対策を施している。にもかかわらず、異物混入は大きく減っていない。異物混入が減少しない一因は、様々な食品の事故事件から連想される消費者の不安である一方、食品製造現場での異物混入対策が「異物が商品に混入する原因」を十分に減らすものでないことも多いと思われる。
多くの食品製造企業は異物混入発生時に次のような対策を行う。

問題は「取引先は納得してくれた」「消費者は怒っていなかった」など、④で活動を終了してしまうことである。ここまでの流れは「クレーム対応」の取り組みであり、再発を防止するための活動ではない。異物混入対策が対処療法に終始しては、一時的には効果が出たとしてもまた同じような異物混入が起きてしまう。その理由は、異物混入に至った「原因」を明確に出来ていないからである。異物混入の再発を防止する活動とは、混入の原因を明確にし、その原因をなくす、または低減するための活動に他ならない。

〈 図2 異物混入の再発防止活動手順 〉

クレーム対応では、混入した異物とそれが混入する可能性を製造現場で調査する。しかし、ここで探している「混入する可能性」は該当異物に関してのみである。再発防止には、さらに深い原因究明が不可欠である。原因究明とは、直接的に混入した原因(例えば金属片の場合、「使用備品が欠けた」など)だけではなく、混入に至った経緯の原因(備品が欠けたことに気づかなかった。あるいは、欠けたまま放置してしまったなど)を明らかにすることである。時間的に余裕のないクレーム対応だけでは、ここまでの分析が出来なくて当然である。再発防止に繋がる原因究明はクレーム対応が一段落してから取り組むべきことである。

4. 異物混入対策のマネジメントシステム

原因究明や、その改善活動には、マネジメントシステムの考え方が不可欠である。
異物混入対策のマネジメントシステム作りでは、異物そのものの管理ではなく、製造現場における「混入にいたる原因の管理」が重要なことを十分に理解する必要がある。したがって、異物混入対策のシステムは「現場に適したものであること」と、「各種の活動が整理され体系的であること」が前提である。この2点を考慮して、製造現場で失敗の少ないシステム導入手順を考えると次のようになる。

5. 管理システム構築の手順

5.1 管理対象となる異物の理解

管理ルールはすぐに作らず、自社に必要かつ適切な管理方針をまとめることがシステム作りの第一歩である。特に、全てのことを一気にできないので、やるべき優先課題(例えばどんな種類の異物を解決したいのか)と製造現場ができる能力を考えて、必ず効果・成果が出せる目標を決める。次に、マネジメントシステムの要素(PDCAの要素)を現場での活動へ転換することと、現場での管理のための様々な具体的知識を整理しておくことが必要である。食品製造現場ではマネジメントシステムに不慣れなケースもある。できないルールや文書化を先行させ現場になじまない仕組みを作るなど、現場での応用を前提にしたシステムの要素が十分に考慮されていないと、継続は難しい。異物混入対策におけるPDCAサイクルは次の手順である。

◆計画 PLAN

→ルール作りと導入計画のための調査分析
→システム導入のための基本計画の作り
→現場で運営できるための暫定ルール作り

◆行動 DO

→導入の基本計画とその主旨の理解
→暫定ルールの意味・意図の理解
→全社的な活動の開始

◆検証 CHECK

→個別の活動の実施状況の確認
→活動結果の効果の確認
→不具合の要因・原因を確認

◆改善 ACTION

→確認された状況の相互把握(会議を開く)
→問題の要因の解決策を決定(会議で決する)


上記に該当する内容を製造現場の管理に置き換えることで適切な改善計画や現場管理の計画が立案できる。「生きたシステム」を構築するために『システムとは何か』を再考することをお薦めする。異物混入の発生についてのメカニズムや異物管理の知識・テクニックを理解することも重要である。異物混入事故の発生原因を考えると単純ではない。多くの場合、従事者のメンタル面や組織内の人間関係などの人間的要素も含めた多様な要因が複雑に絡んでいる。異物混入の要因がどのような条件・状況で生じるのか十分に理解しなければ、管理すべき要件を見落としてしまう。異物混入対策の成功には、システム整備と同様に管理の精度向上が必要となる。特に、混入事故が生じる様々な可能性ときっかけを想定する部分が重要であり、一例として、異物混入が起こりやすい製造現場の様子を表1に示した。

〈 表1 異物混入事故が起きやすい製造現場の状態 〉

5.2 異物混入発生の要因を現場で調査

決定した管理方針をふまえた各種のルール作りは、机上で行うと現場の実践性が極めて乏しくなる。筆者は異物事故の原因が、現場での無理なルールであったことを数多く経験している。現場でできる的確なルール作成には、現実を良く見極めることが第一歩といえる。方針に基づいて製造現場で何が行われているかを見抜くことが必要である(診断調査)。異物混入対策の診断調査は、様々な可能性を考えて行うことが必要となる。工場では製造現場のみならず製造施設周辺から工場外周も含めた調査の対象となる。様々な可能性を考えて従事者の身の回りから製造機械の駆動部、制御ボックス、さらに現場事務机の中等から工務室まで、普段は異物混入対策での点検等を行っていない場所があれば、必ず確認しておく。
確認された事実から、問題の本質を考えずに表面的事実への対策をいきなり進めることは不適切である。診断調査の大きな目的は『再発を防止するための活動』であり、『異物混入の要因になること』を探し出すことが必要である。『なぜ、この様なことが生じたのか?』をよく考えることが極めて重要なことであり、単純な対策先行は決してうまくいかない。分析不足の事例に「”ルールがあるから大丈夫”(管理されているはず)という先入観で問題点を見過ごす」ということがよくあり、システムに慣れた現場はこの傾向が強い。このような失敗を減らす意味でも、現場の状況とすでに存在するルールとの整合性を精査する。このときのルールは文書化されているものだけでなく、未整備なルールや不文律のルールも含めて行うべきである。文書がなくても、現場の創意工夫で励行・遵守されているものも少なくない。現状分析をはじめるにあたり確認すべき最低限度のルールを表2にまとめた。

〈 表2 現場ルールの確認事例(異物対策の場合) 〉

さらに、ルールだけでなく、ハード面の不具合も調査する。防虫対策中心のチェックリストを例に挙げる。

〈 表3 有害生物防除チェックリスト(ハード面) 〉

〈 表3 有害生物防除チェックリスト(ハード面) 〉

現実が十分把握できても、その結果を管理に変換できる能力を現場担当者が理解できていなければ、机上のルール作りと大差がない。つまり、現場管理者は現場の現実と今後のあり方を具体的に共有する必要がある。共有は、管理の方針・改善計画の概要・主旨の理解
に最も効果的な手段といえる。これらを理解するためには、体験学習と討論を組み合わせたワークショップ形式の学習会の開催が有効である。討論を設けることにより、管理者として何をすべきかが整理され、現場の従事者を有機的に活用できるようになる。ワークショップ形式の学習会で、製造現場で起きる問題の原因究明について討論する。実際の問題を題材に、直接的な対策を考えるのではなく、「この問題が起きている原因は何? → その原因の原因は何? → さらにその原因の原因は何?」と原因を出来るだけ深く考える習慣をつける。このように原因を追究していくと、単に「従事者が悪い」や「時間がない」などに代表される短絡的な原因ではなく、製造現場のマネジメントシステムの弱点が浮き彫りになる。

5.3 初期改善

調査結果によっては製造現場の原状回復とシステム管理への慣れを目的とした初期の改善作業が必要となる。表4に示した項目で9つ以上該当するようであれば、初期改善を行う価値がある。

〈 表4 初期改善の実施を検討すべき状況 〉

初期改善とは不要物廃棄や原料・資材の識別・区別の徹底、集中清掃などの5S活動や、老朽設備の交換や集中保全などを指している。資源投資を見直すことは以降の管理の効率化につながる。この活動で大切なことは、活動を行為優先にしないこと、そして全社的な活動にすることである。そのためには次のことを活動の要素に入れる。

この要素を踏まえることにより、単なる大掃除(現場改善)に終わらせず、活動を通してシステム管理の発想に慣れ、体感することができる。初期改善のフローモデルを図3に示した。

〈 図3 初期改善の取り組みフロー 〉

5.4 記録に基づく検証と継続的教育訓練

診断調査結果に基づく活動や初期改善によって製造現場は改善されることが多い。しかし、そのままでは問題が再発しやすく、定期的な現場確認と記録に基づく会議運営により、検証活動を高める必要がある。記録も単なる結果の記入では効果が低い。記録では、①実施した結果、②実施した状況の確認結果 のどちらを記録することが効果を見出すかを検討する。この記録の種類によって管理者が確認する程度も変化するので注意が必要である。管理者がすべき点は記録記入状況の確認のみならず、現場と記録とを照らし合わせることである。製造現場において、記録と現場の状況が食い違っていることはしばしば見受けられる。この食い違いの事実が悪いというのではなく、「なぜ違いがあるのか?」についてその理由や原因を解析することで、現場改善と異物混入予防に繋がる。記録と現場の格差を埋めるためには仕掛けが必要で、そのために会議の開催と効果的な運営が重要となる。会議では現場を点検した側が一方的に事実を伝えることに終始しやすい。会議の目的は悪い結果を突きつけるのではなく、点検・検証の理解や確認された問題の原因究明・考え方の討論にある。この討論を経て各管理者の能力も向上する。機能的な会議進行の考え方は図4にまとめた。

〈 図4 会議の進め方の工夫 〉

会議は、点検者の現場観察の能力向上にも役立つ。現場点検の訓練として観察の要点を製造現場で指導することもよいが、会議と連動した活動にすることでさらに意義のあるものになる。点検では、均一化の手段の一つとして現場点検用のチェックリストを用いる場合が多い。しかしチェックリストに頼りすぎると記載の項目のみ確認することに陥りやすく、問題の見落としだけでなく、重要な原因を追究することを忘れやすい。活発な会議の中では発見した事象の状況や背景など様々な視点から意見交換が行われるため、表面的な点検ではこの議論に耐えられない。自らの点検方法やその精度について振り返る機会になる。
現場点検時におけるチェックリストの利用方法を図5に示した。

〈 図5 現場点検時のチェックリストの利用方法 〉

5.5 ルールの文書化・体系化

活動が定着したものは、ルールが陳腐化する前に文書として明確にする。文書化のポイントは、言葉や文章での表現にこだわらないことである。例えば清掃用具の劣化はどの程度まで許容できるのか、異物混入対策に関わるルールは文字で表現しきれないことも多い。文章にこだわるあまり、複雑な表現や理解しづらい内容になってしまい、従事者が誤解や勘違いがあってはならない。表現はできるだけシンプルなものがよく、使う言葉は箇条書きで図や表、写真を利用し従事者に伝わりやすい工夫が重要である。

6. 終わりに

食品製造現場のマネジメントシステムづくりを中心に解説してきた。手順にそって活動することで、多くの食品企業が異物混入対策の減少に成果を出している。今回解説している内容はあくまでモデルケースである。製造現場の人員や広さ、管理状況などを総合的に判断して、様々なアレンジも必要である。製造現場での人間関係や従事者を動かす仕組み作りにはコミュニケーションの工夫を考えなくてはいけない。

参考文献

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