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プロフェッショナルに訊く 第3回 食品製造現場における5S管理の重要性と考え方

1. はじめに

5Sとは、「整理」・「整頓」・「清掃」・「清潔」・「しつけ」という5 つの実施事項のことである。5つをローマ字にした時(Seiri、Seiton、Seiso、Seiketsu、Sitsuke)の頭文字全てがSになることから5Sと命名された。日本では大正頃、製造業が家内工業から大規模工場へ移行し、大人数で製造を行う上で整理整頓が重要だと言われ始めた。それに清掃が追加され、製造現場の見た目を綺麗にするためのスローガンとして3Sができた。その後、「清潔」、「しつけ」が追加された。戦後、整理、整頓、清掃、清潔、しつけが5Sと呼ばれるようになり、特に工業系工場で現場管理手法として取り入れられた。工業系の5Sは、効率化、現場従事者の規律強化、経費削減、安全管理などで大きな効果を挙げた。(以下工業系の5Sを工業5Sとする。)1990年代、食品工場でも5Sが取り入れられるようになったが、当時の食品工場は、日常的に不要物が多く汚れや残渣の目立つ工場があり、工業5Sの考え方を取り入れる必要があった。

2. 食品工場における5Sの重要性と問題点

食品工場で実施する異物混入対策の中には5Sに含まれる要素が多くあり、5Sは食品工場において衛生管理全体を効果的に行うためにも重要であった。2000年代に入り、5Sに取り組む工場は増えてきたものの、5Sに取り組んではいるが、現場が綺麗にならない工場もあった。5Sが食品工場で達成できない理由の1つが目的の違いである。工業5Sの目的が効率化、現場従事者の規律強化、経費削減、安全管理などであるのに対し、食品工場の目的は綺麗で衛生的な環境を保つことである。当初、その目的について深く考えられていなかったため、工業5Sの手法をそのまま用いていた。その結果、あまり効果がみられず、近年になって食品工場での5Sについて見直され始めた。

3. 食品5Sの構築

食品工場の5Sは、工業5Sで掲げられた多くの目的を除外し、食品に悪影響をおよぼさない環境作りを目的とした。その環境について、Sの1つである「清潔」という言葉で表現した。次いで、5S実施の要として「しつけ」が見出された。食品工場では、経費削減や人員削減などで人員が安定せず、従事者の教育訓練にはとても苦労したからである。現在の食品5Sは、目的の「清潔」を達成するために「整理」、「整頓」、「清掃」を行い、確実に実施する基礎として「しつけ」が位置づけられている(図1)

〈 図1 食品5Sの概念図 〉

4. 食品5Sの目的「清潔」

「清潔」とは、食品に悪影響をおよぼさない環境のことである。すなわち、微生物汚染、化学物質汚染、異物混入がおこらない状態を作り出すことである。具体的には、「混入しにくい環境をつくる」、「なくなったらすぐわかるようにする」、「異常な状態であることに気づけるようにする」である。

5. 5Sの実施内容

「清潔」という目的を達成するために「整理」、「整頓」、「清掃」を行う。以下に具体的な実施内容を示す。

5.1 整理

「整理」では、工場内に存在する化学物質と使用物品を極力減らすために、そこに必要なものを明確にする(表1、表2)。次に整理の基準を明確にする。原則は「要らないものを捨てる」、「使わないものを捨てる」である。しかし、「要らないもの」、「使わないもの」という表現はあいまいであるため、管理者と現場従事者との間で要不要の認識が一致しないことが多い。以下が「要らないもの」「使わないもの」を明確にするためのポイントであり、カッコ内は一例である。

〈 表1 食品工場で取り扱いのある化学物質の一覧 〉

〈 表2 食品工場における持ち込み禁止物の一例 〉

私物の持ち込み禁止は、工場で使用するボールペン等の個人管理備品も工場が支給することで管理しやすくなる。最終的には、管理者と現場従事者で現場を巡回し、捨てるものにマーキングする。整理基準を明確にした後、要らないものを捨てる。この段階で捨てることに抵抗があれば、一時置き場を確保しそこでしばらく保管する。保管期間中に「必要」と判断されたものは現場に戻し、2〜3ヶ月製造して使わなかったものは捨てることで、思い切った整理ができる。ものを減らすことができたら、スペースが生まれる。例えば、棚の段数を減らし床と棚との間を30cm以上開け、棚と壁とを離す。これにより清掃しやすく、また不要物を見つけやすい状態となる。

5.2 整頓

「整頓」では、ものの置き場所、個数、置き方を明確にする。大きな棚などは整理の段階で見直されているので、ここでは細かいものの置き場所を明確にし、棚板の配置などを修正する。その際に以下の点に気を付ける。カッコ内は一例である。見えない場所がないようにする。(棚の天板にはものを置かない)人が入れない場所をなくす。(棚と壁の間を人が入れる程度に開ける)全てのものの置き場所に表示をする。(引き出し、棚などにも表示する)ひと目で見て、ものがなくなっていることに気づけるようにする。(必要なものだけしか置けないようにする)用途の異なるものを一緒に置かない。(化学物質(殺虫剤、シンナー、機械油)は、食材や食品に触れる器具とは隔離して置く)作業中の動きを考慮して、ものの配置を決める。(作業場所の近くに一時置き場を作る)この中で特に注意すべき点は、ひと目で見て、ものがなくなっていることに気づけることである。例えば、決められたもの以外は置けないようにしておけば、ものがなくなっても一目でわかる。ものが全て存在することを確認するために個数を数える工場もあるが、数える労力がかかり、数えた時にしかなくなったことがわからない。また、なくなったことがわかった時に、それが混入したかもしれない製品の特定にも時間がかかる。
ものの配置は、作業中の動きを考慮して決めることをお薦めする。好ましくない例を1つ挙げると、最終的な置き場所を決めていても、作業中にどこに置くかは決めていない工場が多い。数分に1回使用する備品を、作業場所から数mも離れた置き場所に「使った都度戻せ」と指示したりする。このような作業現場では「製品がむき出しで流れている機械上にボールペンが置かれている」という状況が見られ、異物混入の危険性が高くなっている。このような問題は、作業者の動きや備品の使用頻度を考慮し、作業場所の近くに一時置き場を作ったり、備品を入れたカートと従事者が一緒に移動したりすることで解消できる。写真2は、ライン近くで混入が起きないところに籠を用意した例である。作業中に必要なものはこの籠に入れておく。
作業終了後、不要なものが置かれないように稼働中以外は籠を逆さにしている。「整頓」が終わった段階で、ものの数が減り、置き場所も明確な製造現場となる。

5.3 清掃

「清掃(洗浄も含む)」では、清掃不足による化学物質汚染や異物混入をおこさないために、清掃ルールを決め、実施する。しかし、ルールを文書化し細かく決めることは重要ではない。重要なのは“出来上がりの基準”を明確にすることと、使用薬剤の用法用量に合ったルールにすることである。食品工場において清掃は、以下のように様々な目的で実施されている。

目的の違いにより、清掃の手順や方法、出来上がりの基準は異なる。例えば、微生物を除去するためには殺菌が必要だが、昆虫の発生防止には必要ない。
清掃ルールでは、手順を重視し細かく決めたとしても、出来上がりには個人差が出てしまう。逆に、出来上がりの基準を決めておけば、出来上がりに差は出にくい。清掃の目的は手順通りに実施することではなく、最終的に微生物がいない環境や昆虫が発生しない環境にすることである。ただし、出来上がりに差が出る場合や作業者に危険がおよぶ場合は、手順、使用薬剤、用法用量(希釈濃度、すすぎ時間)、保護具の使用、実施禁止事項などを決めなければならない。

5.4 整理・整頓・清掃の構築

3Sの構築方法は大きく2つある。1つは、整理、整頓、清掃の順に徐々に構築していく方法である。多忙な業務の中、徐々に構築していくことで日常業務に掛かる負担を軽減できる。しかし、3Sの状態が非常に悪いと、構築は進まない。2つ目の方法は、一斉清掃(年末の大掃除のようなもの)の実施である。その一例を以下に示す(図2)

〈 図2 一斉清掃の手順例 〉

6. しつけ(習慣)

「しつけ」では、的確に3Sを実施させる。5Sの「しつけ」というと、管理者が一方的に怒って実施させるイメージが強く、更に上手くいかない理由を「従事者が悪いから」と結論づけてしまいがちである。そのような失敗をしないために、5Sの「しつけ」は「教育訓練」と考えるべきである。またこれらの理由から、「しつけ」ではなく「習慣」としている組織もある。いずれにせよ必要な項目は、「教える」、「実施させる」、「確認する」である。

6.1 教える、実施させる

「3Sのルールを従事者に伝えるだけ」、「文書化されたルールを渡すだけ」では、従事者全員に同じような成果は期待できない。3Sのルールを教える際に重要なことは、何のためにやるのか目的を伝えることである。3Sは一般的で誰もが当たり前に感じているため、目的なく、だらだらと実施してしまいがちである。
次に、実際にルール作成者が一緒に実施することである。これには2つの理由がある。1つは、口で言うだけでは伝わらないということ、もう1つはルール作成者自身がルールの良し悪しを体感しておかないと問題点がわからないということである。ルール作成者がお手本として実施した後、すぐに従事者に実施してもらう。従事者が実施している状況をルール作成者が確認しないと、正確に伝わったかどうかわからない。また、本当に実施可能なのかどうかもわからない。

6.2 確認する

ルールそのものや実施環境に無理があり、教えた直後は実施できたが長く続けられない場合がある。そのため、ルールを従事者にしっかりと教えた後、3Sは実施されているか、「清潔」は達成されているかを確認する必要がある。確認で重要なことは、現場をよく見て、従事者の話をよく聴くということである。現場を確認する場合、次の5点が必要である。

① ルールを踏まえて現場を確認する

ルールを踏まえて現場を確認すると、不要物の存在や清掃不良の原因を推察することができる。例えば、清掃不良を見つけた場合、以下のような見方ができる。清掃がルールどおりに実施されていないので、清掃ルールの伝達方法を見直さなくてはいけないのではないか。清掃はルールどおり実施しているが、残渣があるので、ルール自体を見直さなくてはいけないのではないか。清掃ルールを決めていなかったので、清掃ルールを追加しなければいけないのではないか。このように考えることで、汚れを発見したら清掃するといったその場しのぎの対処療法ではなく、5S活動全体を見直すことにつながる。

② 類似した問題点を探す

問題点を見つけた時に、類似した問題の有無も確認すると、原因を絞りやすくなる。例えば、類似した問題が散見している場合は、3Sのルール自体や「しつけ」に問題があるのかもしれない。1つの部署だけに問題が集中している場合は、その部署特有の問題があるのかもしれない。

③ 従事者の意見を聴く

原因を絞り込むためには、従事者の意見も聴かなければならない。従事者の意見を聴くことで、思いがけない問題に気づくこともあるし、実際に3Sを実施している従事者の意見はルールの見直しには不可欠である。

④ 解決策を現場従事者と話し合う

現場を観察して、話を聴いてから改善策を考える。この時、①〜③で入手した情報を基に原因と対策を考える。汚れていた箇所をいつ誰が掃除するか、不要物をいつ誰が撤去するなどの決定も必要だが、「ルールづくり」、「ルールの伝達方法」、「ルールの確認方法」、「原因究明や対策の立案」など、活動全体の問題点に対しても原因と対策を考えるべきである。これらの話し合いに現場の従事者にも加わってもらうことで、従事者の3Sに対する意識やスキルが向上する。

⑤ 一方的に怒らない

「教える、実施させる、確認する」時に、ルールを教える人間は従事者を一方的に怒ってはならない。そのように怒ってしまうと、意見を言わなくなる他、現場の悪いところを隠すようになり、現場の実態が把握できなくなる。5Sを維持するためには「教える、実施させる、確認する」を繰り返していかなくてはならない。これにより、製造環境の変化、製造品目の変更、人員の異動などによる5Sの崩壊を防ぐことができる。

6.3 現場の士気を下げない

5S活動をはじめた時、進捗が悪いと従事者を叱責することで改善を進めようとしてしまう。しかし、大半の従事者が5S活動に取り組んでくれない場合、その目的や意味、必要性を理解していないことが多い。全社的に5Sが進まない場合は、従事者を社外の会合や客観的な評価の場(例えばクレーム処理)に同伴させ、5Sの意義を感じさせると効果的である。
活動が軌道に乗りつつある中で、些細なことが原因で現場の士気を下げてしまう場合がある。注意すべき防止のポイントを挙げる。

① 例外を許さない

大多数の従事者が5Sを実施しはじめたら、実施しない少数の従事者に対しては特に留意して指導しなければならない。5Sを実施する際、「5Sをやるぞ」という意気込みがある従事者と「5Sをやりたくない」という従事者はいずれも少数である。(大半の従業員は周りに流されている。)そのため、5S活動が工場に浸透しはじめた時、少数のルール違反や例外を許していると5Sをしない状態に逆戻りしてしまう。これまで後ろ向きだった者の変化は、組織の5S定着を加速させるはずである。

② 経営者や管理者こそ積極的な姿勢を

経営者や管理者といった上位役職者がルール違反をした時は、いさめるべきである。工場で従事者が一生懸命5Sを実践しているにも関わらず、経営者のような上位役職者が全くルールを知らなかったり、自分は関係ないという態度を示した場合、確実に工場全体の士気を下げる。5Sの成功には、たとえ社長でも「ルール違反は許さない」という会社としての取り組みや雰囲気づくりが重要である。このように「しつけ」は1つのSでありながら、非常に重要であり大きな役割を担っている。

7. 進化する5S

現在も食品5Sを機能的にするために日々多く手法が考え出されている。また、食品5Sの考え方や概念を見直す動きもある。その一例が食品衛生7Sである。この特徴は、ひとくくりにされている「清掃」を、「清掃」、「洗浄」、「殺菌」の3つのSに分け、それぞれの目的や手法を明確にした点である。この中では、3つのSは食品工場の微生物対策として重要なので、分けて考えるべきであると提唱している。異物混入防止だけでなく、微生物汚染防止をより確実に達成することを目指している。

8. さいごに

5Sは衛生管理の1手法である。5Sを上手く利用し、会社に根付かせるためには、5Sの目的「清潔」を明確にしておくこと、「しつけ」についてしっかりと考えておくことが重要である。特に、「しつけ」を利用して社内のコミュニケーションを円滑にし、経営者から現場まで会社一丸となって活動することは重要である。今回記載した内容を基に、しっかりと会社に根付いた5S活動に挑戦して頂きたい。

参考文献

イカリ消毒株式会社, 食品衛生べからず集, 株式会社JIPMソリューション, 2009.
イカリ消毒株式会社, 食品事故ゼロをめざす!食品衛生「基礎のキソ」コース1. 株式会社JIPMソリューション, 2010.
尾野一雄, TPMエイジ[5Sじゃ足りない 食品衛生7Sの基礎知識], 株式会社JIPMソリューション, 2011[2011年5月号, 8-17].
米虫節夫ほか, 現場がみるみるよくなる食品衛生7S活用事例集2, 株式会社日科技連出版社, 2010.
米虫節夫, 食の安全を究める 食品衛生7S導入編, 株式会社日科技連出版社, 2006.
高木裕宜, 経営論集[5S活動の生成と展開], 文教学院大学, 2006[16-1:127-143].