特集

月刊「クリンネス」より

日本の警戒すべき感染症
-感染症から身を守るために-

シリーズ③ マイコプラズマ肺炎 
/元東京医科大学・大学院 准教授
ルナール純子

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月刊クリンネス

マイコプラズマ属には70余の菌が存在しますが、人への病原性菌として古くから認識されているのはMycoplasma pneumoniae のみです。ここでは、本菌の性状とそれによる肺炎について略述します。

Mycoplasma pneumoniae の特性

マイコプラズマは、生物学的には細菌に分類されます。しかし、細菌の特徴である細胞壁を持ちません。結果として、菌体は多形態を呈します。培養には専用の培地を要し、生育した集落は目玉焼き状 (fried egg)のきわめて特徴ある形状を示します。臨床検体から当該菌の検出を試みても、培養の操作が煩雑かつ期間に2〜4週を要するなどの理由で、大変困難です。

感染経路

患者の咳、くしゃみや唾液といった飛沫状の分泌物とともに放出された菌体を吸い込むことで感染する飛沫感染です。特に、呼吸器症状が強い時期の患者からは感染力が強い菌が排泄されるので、その時期の患者への接触を避けましょう。

臨床症状

症状にはかなり個人差が認められています。ここでは、一般的特徴を箇条書きにします。
①潜伏期は通常約2〜3週間。
②初期症状は軽度の風邪様症状(全身倦怠感、喉の痛み、乾いた咳など)が3〜4日間続く。微熱、場合によって38度以上の高熱を伴う。
③主症状は痰を伴ったひどい咳の発作。咳が最もひどいのは2週目頃で、4週間程度まで長引く。
④自然治癒が多く、予後は比較的良好。
⑤小児の合併症として吐き気、嘔吐、下痢、中耳炎・鼓膜炎、発疹などの報告がある。

発生状況

マイコプラズマに対する抗体検査法の改良によって、感染の実態が判明してきました。5歳までに65%、大人までに90%以上が日和見感染(健常人に感染している元来無害の菌が、宿主の免疫低下によって、自己増殖域を拡大し発病へと導く状態)を受けています。発症後は特異抗体(他にはなく、当該菌のみに存在する成分に対して産生される抗体)が産生されますが、長期間続かず、感染を繰り返す例があります。好発年齢層は5〜35歳。年間を通して患者が発生。季節的には秋から冬に多発する傾向がみられます。

予防対策

感染経路は主に飛沫によりますから、マスクの着用は予防に効果的です。帰宅した時は、手洗いとうがいを入念に行ってください。また、界面活性剤はよく効きます。市販の速乾性消毒剤の使用もお勧めです。感染と発症には宿主の免疫状態が影響すると考えられていますので、日常の体調管理に留意しましょう。現在、ワクチンは開発されていません。

近年、マイコプラズマ属の中で、M. fermentansと M. genitalium が人の疾患と関連する菌として指摘されました。両者は尿道炎や子宮頚管炎を起こす性感染症の原因と考えられています。身近な疾病の病原体として新たなマイコプラズマ類の登場が予測されます。