特集

月刊「クリンネス」より

日本の警戒すべき感染症
-感染症から身を守るために-

シリーズ⑤ ウエストナイル熱 
/国立感染症研究所 ウイルス第一部
西條政幸

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月刊クリンネス

ウエストナイル熱・ウエストナイル脳炎とは

フラビウイルス科のウイルスの一つであるウエストナイルウイルス(West Nile virus)感染による発熱性疾患をウエストナイル熱と、中枢神経障害(脳炎)をウエストナイル脳炎といいます。
日本脳炎ウイルスなどのフラビウイルス科のウイルスの多くのウイルスと同様に、蚊媒介性ウイルスです。このウイルスは宿主である鳥と蚊の間でサイクル(生活環)が形成されています。ちなみに、日本で流行する日本脳炎ウイルスは、蚊とブタの間で生活環が形成されています。媒介蚊はイエカやヤブカです。ヒトはウエストナイルウイルスを保有する蚊に刺されることにより感染します。当然、蚊の活動性の高まる夏期に流行します。
1998年までは、アフリカ、ヨーロッパ南部、地中海、熱帯アジア、インドにかけて分布しているウイルスでした。しかし、1999年に米国ニューヨーク市でウイストナイルウイルス感染症患者が確認され、初めて同ウイルスがアメリカ大陸に侵入していることが確認されました。1999年以降アメリカ大陸では東部から西部に徐々に流行地が拡大し、2001年にはカリフォルニア州でも患者発生が確認されました。現在では、北米だけでなく、中南米においても流行が確認されています。
潜伏期は3〜15日です。ウエストナイルウイルスに感染している蚊に刺された後、局所神経組織で増殖したウイルスが血中に入ります(ウイルス血症といいます)。また、中枢神経に達することもあります。多くの人はウイルスに感染しても発症することはなく(不顕性感染といいます)、症状を呈するのは多くて2割の方です。
ヒトは、同ウイルスに感染すると、発熱、発疹、関節痛、筋肉痛の症状が出現し、また、脳炎に至る場合があります。ウエストナイルウイルス感染者の多くは、発熱、発疹、関節痛、筋肉痛などの非特異的症状を呈し、感染者の100〜1000人に1人の割合で脳炎を発症すると言われています。
米国では、輸血や臓器移植に関連するウエストナイルウイルス感染症が問題となっています。スクリーニング検査の必要性を示しています。
ウエストナイル脳炎には特異的治療法はありません。使用可能のワクチンもなく、蚊に刺されないようにすることが重要です。

ウエストナイルウイルス感染症が日本で流行する可能性

従来、アフリカや中近東、ヨーロッパで流行していたウエストナイルウイルス感染症が米国で流行するようになったことは、ウイルス感染症は場所を変えて流行するようになる危険性を示しています。ウエストナイルウイルス感染症の流行地を日本の位置から見てみると、西(中近東、アジア)にも東(アメリカ大陸)にも流行していることがわかります。しかし、日本では米国で感染して帰国後に発症した患者さんが一人確認されているのみです。
蚊と鳥類の間でウイルスが維持されているというこのウイルスの生活環を考えると、日本に同ウイルスが入り込むと日本でも定着する可能性は否定できません。しっかりとしたサーベイランスが重要です。