特集

月刊「クリンネス」より

日本の警戒すべき感染症
-感染症から身を守るために-

シリーズ⑥ マラリア 
/東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科 国際環境寄生虫病学分野 教授
太田伸生

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月刊クリンネス

病原体の特性

マラリアという病気はマラリア原虫が蚊の吸血の際にヒトに移行して、赤血球内に寄生することによって起こります。ヒトに病気を起こすのは熱帯熱マラリア原虫、三日熱マラリア原虫、卵形マラリア原虫、四日熱マラリア原虫の4種類です。しかし、第五のヒトマラリアとして、サルのマラリア原虫が感染することもわかってきました。

感染経路

蚊の吸血時にスポロゾイトというステージの原虫がヒトに侵入します。最初は肝細胞の中で増殖した後、原虫は赤血球に移ります。赤血球中で一匹の原虫が2〜30匹に分裂し、やがて赤血球を破壊して新たな赤血球に侵入していきます。赤血球から出てきた原虫の一部は生殖母体に変化して、これをハマダラカが吸血すると次の人へ感染する原因になります。

臨床症状

マラリア原虫が発育して赤血球を破壊する際に、熱発作がおこります。同時に貧血や脾臓の腫れも出現します。原虫の発育サイクルは不思議なことにヒト体内で同調してきますから、発熱発作は一定の時間間隔で起こるようになります。三日熱や四日熱という名前の由来です。症状が重く危険なのは熱帯熱マラリアです。循環赤血球の半数以上に原虫が侵入することもあります。この種類の原虫が感染した赤血球は毛細血管内皮に接着して、全身の血流が阻害されます。そのために昏睡、腎不全、肺水腫などの重症マラリアを起こし、死亡原因になります。

発生状況

熱帯・亜熱帯地方を中心に世界中に2億人の感染者と年間90万人以上の死亡例が発生しています。特に被害が大きいのはサハラ以南のアフリカで、五歳未満の小児に大きな被害を与えています。
日本でもかつてマラリアがあり、「瘧(おこ)り」と呼ばれました。平清盛の死亡もマラリアのためであると推測されています。第二次大戦後に減少し、八重山地方を最後に国内のマラリア流行は終息しました。現在、日本国内で発生するマラリアは全て外国からの輸入マラリアです。しかし、韓国では1990年代になってからマラリアの流行が再興してきました。地球温暖化の中で日本でも注意が必要です。

予防対策

マラリア予防のためのワクチンはありません。一番の予防法は蚊に刺されないことです。マラリア流行地に出かける時は、夜間外出時は長袖シャツに長ズボンを着用し、リペレントを使用するべきです。また就寝時の蚊帳の使用が奨められています。さらに、マラリア治療薬を予防的に服用する方法もあります。しかし、薬剤には必ず副作用がありますから、医師の判断に基づいて適切な薬剤を処方してもらう必要があります。
人間はマラリアと闘ってきました。科学の進歩は多くの薬剤開発をもたらしましたが、マラリア原虫の耐性獲得を前に多くの方策は失敗しました。その結果、私たちは日本古来の風物詩である蚊帳と蚊取り線香に頼らなくてはならない現実に直面しています。人間の知恵は当面、マラリア原虫を超えられそうにありません。