特集

月刊「クリンネス」より

日本の警戒すべき感染症
-感染症から身を守るために-

シリーズ⑧ 狂犬病 
/国立感染症研究所 獣医科学部 感染制御研究室 室長
井上智

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月刊クリンネス

現状

狂犬病は世界中で見られるズーノーシス(動物由来感染症)であり、急性、進行性、致死性の脳炎を特徴とするラブドウイルス科リッサウイルス属(Family Rhabdoviridae 、Genus Lyssavirus)に属するマイナス1本鎖RNA 型ウイルスによる感染症です。狂犬病ウイルスは、ヒトを含むほとんどの哺乳類に感染することが知られており、いったん発症するとほぼ100%死亡します。ヒトは狂犬病を発症した動物に咬まれたり引っ掻かれたりして感染します。現在も、アジアやアフリカなどの発展途上国を中心に毎年5万5000人が狂犬病で死亡しており、その99%以上がイヌによる感染です。現在、狂犬病の発生がない国は、日本、台湾、オーストラリア、ニュージーランド、イギリス、スウェーデン、ノルウェーなどごくわずかです。

動物での流行

イヌ以外に、ネコ、ウシ、ウマなどの家畜や野生動物で報告されています。野生動物に流行している狂犬病は地域で動物種が異なり、北米はアライグマ、スカンク、コウモリ、東欧はキツネやタヌキ、中南米はマングース、吸血コウモリ、アフリカはマングース、キツネ、ジャッカルなどです。

感染経過

通常、ヒトは狂犬病に感染してから発症するまで1〜3ヶ月の潜伏期間があり、ウイルスも抗体も検出することができません。一旦、狂犬病を発症すると死に至るまでの経過は速く、ほぼ1週間で死亡します。

ヒトの臨床症状

急性の神経症状期に間欠的な強い不安感に襲われて錯乱状態となりますが、それ以外では意識清明です。飲水や顔面への風による咽頭喉頭筋のけいれんと強い痛みをともなう「恐水症」や、「恐風症」が特徴です。病態が進むと運動失調、全身けいれん、昏睡となり、不整脈、呼吸器不全、呼吸麻痺となって死亡します。これ以外に、麻痺を主症状とする狂犬病が20%程度あります。

予防

狂犬病には有効な治療法はありませんが、感染が疑われた場合に直ちに狂犬病ワクチンによる暴露後の発症予防(PEP:post-exposure prophylaxis)を行って発症を防ぐことができます。毎年、1500万人がPEPを受けているといわれています。また、狂犬病ではヒト対策と感染源である動物の対策が共に重要です。日本は、イヌの予防接種、流行の原因となる野犬の掃討、動物検疫等によってイヌの狂犬病を制圧することに成功しましたが、隣国のアジア諸国では依然としてイヌを中心に狂犬病が流行しています。近年(2006年)、2名の邦人が海外でイヌに咬まれて帰国後に狂犬病を発症して亡くなりました(http://idsc.nih.go.jp/iasr/28/325/inx325-j.html)。
狂犬病の世界的な分布と自然宿主域の拡がりを考えると、まだまだ忘れてはいけない感染症と言えます。