特集

月刊「クリンネス」より

バイオセーフティの基礎知識

シリーズ① バイオセーフティとは何か 
/バイオメディカルサイエンス研究会 理事長
小松俊彦

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月刊クリンネス

“なぜ今バイオセーフティが求められているのでしょうか?”。それは近年、新しい病原微生物が出現し、新しい感染症が発生している事や、国際社会の不安定化によるバイオテロの問題が懸念されているからであります。
その様な情勢を踏まえ、この9回のシリーズは病原体を取り扱う研究室の安全管理と運営、バイオテロに用いられる病原体の種類と特性を解説し、その対策の一助とすることにあります。

バイオセーフティ(Biosafety:生物学的安全性)とは、バイオハザード防止対策を総称する用語として、近年国際的に広く用いられています。バイオハザード(Biohazard)は、「Bio(生物)」と「Hazard(危険性または障害)」の合成語であり、一般的には「生物災害」と和訳されています。
バイオハザードとは、原虫、真菌、細菌、ウイルスなどの微生物やアレルゲン、毒素などの微生物が産生する物質などを原因として人体や他の生物体に生じる災害を意味します。言い換えると、生物因子に起因する、主として人体の健康障害です。バイオハザードの最も一般的なものは、感染症研究などにおいて病原微生物を取り扱う実験室内感染です。
バイオハザードと同じ概念としてとらえられるものに、化学物質を扱う場合に発生する化学物質災害(ケミカルハザード)、放射線を扱う際の放射線災害(ラディエイションハザード)が知られています。

バイオセーフティの取り組みには、(1)起こりうる災害を予測分析し、(2)情報を交換し、(3)必要なハード面の対策を講じ、(4)ソフト面でのルールを策定し、(5)万一のミスや事故に対する対策を講じ、(6)実験者等の教育と訓練を行うことにあります。具体的には、①感染の過程、②病原体封じ込めの基本、③危険性の認識と評価、④封じ込めレベルの認定、⑤バイオセーフティ技術の教育と訓練、⑥安全管理体制の6項目がバイオセーフティの原理としてあげられます。それぞれの内容は、このシリーズの中でふれられると思います。
バイオセーフティに係わる分野は、①病原体の研究・検査、②感染症対策、③院内感染対策、④医薬品開発、⑤遺伝子操作、⑥動物試験、⑦バイオテロ対策、⑧その他公衆衛生関係などで、多くの分野・領域に関係しています。
バイオハザードは、古く十九世紀に細菌の発見と分離培養の成功で認知されました。二十世紀に入り、病原微生物の脅威が次第に明らかになるにつれて、これを戦争の兵器として用いる試みが各国で秘かに進められるようになりました。この細菌やウイルスなどを生物兵器として用いる研究からバイオハザード対策の論議がなされるようになった歴史的背景があります。
近年、世界の多数の国はバイオセーフティの必要性を認識し、バイオハザード防止対策に積極的に取り組むようになっています。その理由は、1993年にWHO(世界保健機関)がエマージング・リ・エマージング感染症(新興・再興感染症)の出現を契機に「人類は未だ感染症の脅威にさらされている。病原微生物の新たな挑戦に対処しなくてはならない。」との警告を発表したことや、米国で発生した炭疽菌(たんそきん)事件などバイオセーフティに係わる社会的問題が発生したことにあります。
わが国においても新型インフルエンザ、ノロウイルスによる感染性胃腸炎などの感染症対策への強い関心がよせられるのに伴い、バイオセーフティの必要性も強く求められています。