特集

月刊「クリンネス」より

海外赴任に伴う感染症対策

シリーズ⑫ 最終回 ウイルス肝炎 
/東京都保健医療公社 荏原病院 感染症内科部長
角田隆文

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月刊クリンネス

 ウイルス肝炎にはA型肝炎やB型肝炎、C型肝炎、さらにD型、E型などが含まれますが、おのおの異なる病原体で異なる疾患です。A型肝炎やE型肝炎は経口感染で急性肝炎型、B型やC型は血液感染で、急性肝炎に限らず慢性肝炎もあります。肝炎ウイルスは肝細胞で増殖しますが、破壊することはなく、駆除しようとする免疫反応が肝細胞を壊します。よって感染時よりも肝細胞が壊れるときに症状が始まります。初期の症状は全身倦怠感や発熱、悪心、食欲不振ですが、黄おう疸だんが出て初めて肝炎とわかることがあります。肝細胞が同時に多く破壊されてしまうと、著しく肝臓の機能が低下し、意識障害を伴い、これを劇症肝炎と呼び、致死的なことがあります。慢性肝炎となると、次第に肝硬変、そして肝細胞ガンへ進展してしまいます。

各肝炎への対策

 A型肝炎は、一度かかったら二度とかかりません。A型肝炎は環境衛生の指標でもあり、先進国ではあまり見られず、輸入例や食品を介した感染や不十分な手洗いにより施設内便口感染による蔓延が報告されます。途上国では大多数の人たちが子供のうちに無症状に免疫を獲得しますが、他方、衛生的な環境で育った人たちには免疫がなく、次々に罹患してしまうおそれがあります。日本人は知識のうえでは前者であり、実際には後者であるために渡航先でA型肝炎にかかるのです。渡航前には、少なくとも二週間で二回の接種を行ってください。現在は16歳以上が適応ですが、前述のとおり長期に海外赴任される方の家族であれば、接種をおすすめします。
 B型肝炎は、欧米先進国では性行為感染症や麻薬常習者の病気です。しかし、日本、中国、韓国には母子感染の形で代々にわたり感染を続けてきたB型肝炎の人たちが数%存在し、その人から他者へ水平感染していました。WHOは、すべての子どもにB型肝炎ワクチン接種をすすめていますが、定期接種に組み入れていないのは日本と英国などわずかです。韓国では生後一週間以内にほぼ100%接種されていますが、わが国では医療従事者や救急隊員、B型肝炎のパートナーなどに限られています。血液や体液に含まれるウイルスが、粘膜や皮下にはいると数週から数か月ののち急性肝炎を発症します。国内に多いタイプは成人では急性肝炎を起こし慢性化しにくいですが、近年エイズとともに輸入されたタイプでは慢性化することが多いようです。年を経るほどワクチンによる免疫がつきにくいので、できるだけ若いうちにワクチン接種をおすすめします。日程に余裕があれば、抗体価を測定したうえで追加接種します。特に中国、東南アジア、サハラ以南アフリカへ渡航される方にワクチン接種をおすすめします。
 C型肝炎は、罹患後も自覚症状がなく、何年もたってから肝硬変へ進展し、日本では肝臓ガンのほとんどがC型肝炎由来です。現在ではインターフェロンなどによりウイルスを駆除することが高率に可能となってきましたが、ワクチンはまだありません。B型肝炎・C型肝炎の感染経路はエイズ同様、麻薬の静脈注射や性行為感染症ですから、日常に気をつけていればそれほど感染するものではありません。ただ交通事故やそれに伴う医療によって感染してしまうことがありますので、他人の血液や分泌物に触れることは極力避けなければなりません。