特集

月刊「クリンネス」より

海外赴任に伴う感染症対策

シリーズ② 海外各地で流行している感染症とその対策 
/独立行政法人国立国際医療研究センター 国際疾病センター 国際医療支援室医長
加藤康幸

最新の「クリンネス」の情報はこちら→

月刊クリンネス

 日本と赴任先におけるさまざまな感染症の発生状況の違いを理解しておくことは、感染症の予防を考える上でとても大切です。本稿では、世界を開発途上国、経済発展著しい中国・インド、先進国(OECD加盟国)に分けて、それぞれの地域でかかりやすい主な感染症とその対策について、大まかに説明をします。

開発途上国

 細菌性下痢症は、最もかかりやすい感染症です。食品の衛生水準が低いことなどにより、下痢原性大腸菌、次いでカンピロバクター菌、赤痢菌などが原因になります。興味深いことに、滞在が1年間を越えると下痢を起こしにくくなるといわれています。同様に食品や水で媒介されるA型肝炎には、予防接種がすすめられます。
 東南アジア、中南米では、雨期から乾期の初めにかけて、ヤブカが媒介するデング熱(頭痛、関節痛、発疹などを伴う発熱疾患)にかかる機会が増えます。一方、イエカで媒介される日本脳炎はデング熱に比べて、都市部に少ないといわれています。デング熱は有効なワクチンがないので、防蚊対策が重要です。
 サハラ以南アフリカなどでは、ハマダラカで媒介されるマラリアが最も重要な疾患です。特に、致死的な熱帯熱マラリアに感染する可能性が最も高いのは西アフリカです。有効なワクチンはありませんが、予防薬の内服という手段もあります。マラリアの流行地は黄熱のそれと重なる場合も多いですが、マラリアは黄熱よりずっとかかりやすい感染症であることは、強調してもしすぎることはありません。

中国・インド

 経済発展の著しい中国では、B型肝炎が多いことに注意が必要です。また、インドも含めて、狂犬病の患者が多数発生しています。特に子どもを帯同する場合には、渡航前にこれらの予防接種を検討すべきです。
 インドおよびその周辺国では、特筆すべきこととして、世界で最も腸チフス・パラチフスにかかりやすい地域であることが挙げられます。汚染された食物から感染しますが、最近では抗菌薬の効きが悪い耐性菌が多く見つかっています。国内では未承認ですが、腸チフスワクチンがあります。

先進国

 欧州など、国内での予防接種率が十分でなく、周期的に麻疹の流行を認める地域があります。また、先進国においても、いわゆる風土病は存在します。ダニに媒介される発熱疾患は、その代表といえるでしょう。北米のロッキー山さん紅こう斑はん熱ねつ、欧州山岳地帯のダニ媒介性脳炎、トルコのクリミア・コンゴ出血熱などが例として挙げられます。赴任先で地方に旅行をする場合には、注意が必要です。

おわりに

 さまざまな感染症のかかりやすさを適正にとらえることは意外と難しいものです。見知らぬ感染症の名前を聞いて、不安ばかりが先立つことも多いでしょう。赴任前にトラベルクリニックの専門家に相談するなどして、理解を深めておくことがすすめられます。