特集

月刊「クリンネス」より

海外赴任に伴う感染症対策

シリーズ③ 赴任前に受けておくべき予防接種 
/独立行政法人国立国際医療研究センター 国際疾病センター 国際医療支援室医長
加藤康幸

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月刊クリンネス

 予防接種の目的は、感染症の予防です。海外、特に途上国では衛生環境の問題から感染症に罹患するリスクが高く、赴任前の予防接種をおすすめしています。どのワクチンを接種するかは、滞在期間、滞在地域、現地での生活スタイルなどの情報をもとに決めます。今回は、海外に長期滞在する赴任者を想定して話を進めます。

推奨するワクチン

 まず、みなさんに推奨するワクチンは、破傷風(トキソイド)、インフルエンザです。これらのワクチンは、ルーチンワクチンと言われ、日本にいても接種しておいた方がよいワクチンです。破傷風菌は世界中の土壌に存在しており、傷口から感染し、発病すると痙攣、死亡することも多い病気です。また、インフルエンザも世界中に存在し、予防接種が重要です。また、海外で麻疹に罹る事例もあるので、予防接種を検討しましょう。
 さらに、途上国に赴任する勤務者には、A型肝炎、B型肝炎、狂犬病、日本脳炎などのワクチンをおすすめしています。
●A型肝炎:飲食物からかかる病気で、途上国全般で流行しています。このため、途上国に渡航する場合は、滞在期間にかかわらず予防接種をおすすめします。
●B型肝炎:性行為や医療行為の際の汚染された注射針などから感染します。途上国で広く流行しており、中国や東南アジアは高度流行地域です。
●狂犬病:インドやフィリピンなどの途上国では、多くの患者が発生しています。イヌなど哺乳動物に咬まれて感染しますが、発病すると、ほぼ100%死亡する病気です。そのため、動物から咬傷を受けた場合には、消毒や予防接種といった処置を受ける必要があります。高度流行地域に滞在する場合などでは、事前の予防接種をおすすめしています。
●日本脳炎:中国、東南アジア、南アジアで流行しています。蚊に媒介される病気で、発病すると意識障害や麻痺を起こします。ただし、都市部ではまれな病気です。もし農村地帯を生活の基盤にするならば、予防接種を受けてください。
●黄熱:黄熱も蚊に媒介される病気で、熱帯アフリカや南米が流行地域です。発病すると死亡率が高いことから、流行国に滞在する際には、たとえ短期間であっても予防接種をおすすめします。流行国の中には、入国する際に予防接種証明書(イエローカード)の提示を求める国もあります。

予防接種のスケジュール

 ワクチンは、生ワクチンと不活化(死菌、トキソイドを含む)ワクチンの二つに分類されます。今回ご紹介したワクチンでは、麻疹・黄熱が生ワクチンであり、破傷風、A型肝炎、B型肝炎、狂犬病、日本脳炎は不活化ワクチンです。生ワクチンはたいてい一回の接種で終了しますが、ほとんどの不活化ワクチンは複数回の接種を行います。三回接種する場合、一回目と二回目の間隔が約1か月、二回目と三回目が半年から1年です。通常は二回目まで接種した時点で出国し、三回目は現地か一時帰国して接種するようにスケジュールを組みます。なお、複数のワクチンを同日に接種することも可能です。

 このように、予防接種を完了するには一定の期間が必要になるため、出発の一か月前には開始しておきたいものです。