特集

月刊「クリンネス」より

海外赴任に伴う感染症対策

シリーズ⑤ 熱帯地方でかかる発熱性疾患とその対策 
/東京医科大学病院 感染制御部 渡航者医療センター 准教授
水野泰孝

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月刊クリンネス

 感染症が蔓延する開発途上国の多くは熱帯地方に属し、そこでかかる発熱性疾患は日本国内では通常見られないものもあります。ここではいわゆる熱帯感染症の代表的なものについて概説します。

マラリア

 マラリア原虫によって引き起こされ、ハマダラ蚊の吸血によって感染する昆虫媒介性寄生虫感染症です。ヒトのマラリアは熱帯熱、三日熱、四日熱、卵形の四種類がありますが、熱帯熱マラリアは適切な対応が取られないと死に至ることがあるため、十分に注意が必要です。かかってしまった場合は抗マラリア薬で治療します。予防のためのワクチンがないため、防虫スプレーなどを使用して蚊に刺されないような工夫をすることが最も重要な予防法となりますが、必要に応じて抗マラリア薬を内服して予防対策を講じることもあります。

デング熱

 デングウイルスによって引き起こされ、ネッタイシマ蚊の吸血によって感染する昆虫媒介性ウイルス感染症です。ネッタイシマ蚊は人家の内外にある花瓶や水カメなどの人工容器で主に産卵するため、都市部やリゾートでもかかる可能性があります。予防のためのワクチンも治療薬もないため、マラリアと同様に蚊に刺されない工夫をすることが最も重要な予防法です。自然治癒しますが、ときに出血しやすい状態になることがあるため、かかってしまった場合は医療機関の管理下で安静にしていることが重要です。

腸チフス・パラチフス

 サルモネラ菌属のチフス菌・パラチフス菌に汚染された水や食材から感染する細菌感染症です。国内発生も見られますが、多くは南アジアを中心とする海外からの輸入例です。症状は発熱のみであることが多く、マラリアやデング熱と類似します。腸チフスには予防のためのワクチンがありますが、日本では未承認ですので海外から輸入している医療機関で接種することになります。かかってしまった場合には抗生物質で治療しますが、アジア地域では薬剤の効きにくい菌の蔓延が問題となっているので注意が必要です。

その他の発熱性疾患

 代表的な上記熱帯感染症以外にも、汚染された水や食材から感染するA型肝炎、ダニの吸血によって感染するリケッチア症、アジア地域に特有で蚊の吸血によって感染する日本脳炎など、日本国内でも感染する可能性がある発熱性疾患も見られます。また最近では、アフリカ郊外へ赴任する方もおられるようですので、ラッサ熱、マールブルグ病など地域特有のウイルス性出血熱の存在も、感染する可能性はきわめて低いものの頭に入れておく必要があるでしょう。

おわりに

 一概に熱帯地方でかかる発熱性疾患が特有な熱帯感染症ばかりとは言えません。日本国内で日常的に見られるインフルエンザなどの一般的な感染症であることも十分考えられます。医療従事者でも発熱性疾患を鑑別するのは困難なことが多いですが、赴任前に各疾患に関する知識を習得することは、最も基本的かつ重要な対策です。