特集

月刊「クリンネス」より

海外赴任に伴う感染症対策

シリーズ⑦ 世界の寄生虫症の状況と感染予防 
/東京都立墨東病院 感染症科
大西健児

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月刊クリンネス

 寄生虫には多くの種類があります。その中で最も重要な寄生虫はマラリア、特に熱帯熱マラリアです。しかし、マラリアは別に記述される予定ですので、ここではマラリアを除いて述べることにします。

寄生虫の分類

 一般的に寄生虫は単細胞生物の原虫と多細胞生物の蠕虫(ぜんちゅう)に分けられ、蠕虫はさらに線虫類、吸虫類、条虫類に分類されます。熱帯や亜熱帯の発展途上国では、日本と異なり、寄生虫症は極めて普通の疾患で世界保健機構(WHO)によれば、土壌媒介線虫といわれる回虫、鉤虫(こうちゅう)、鞭虫はいずれも現時点で10億人以上の感染者の存在が推測されています。ランブル鞭毛虫や住血吸虫などの前三者以外の寄生虫に感染している人も多数存在すると推測されています。しかし、世界中でどれくらいの人が寄生虫に感染しているかについての正確な統計はありません。

経口感染経路による寄生虫病とその予防

 現地赴任中に原虫症であるジアルジア症(ランブル鞭毛虫症)やクリプトスポリジウム症、線虫類の中でも土壌媒介線虫といわれる前述の回虫、鉤虫、鞭虫による腸管寄生虫症に罹患する確率は高いです。特に長期間の滞在であればその感染確率は増加します。これらの寄生虫は、ランブル鞭毛虫はシスト、クリプトスポリジウムはオーシスト、回虫、鉤虫、鞭虫は虫卵がそれぞれ付着あるいは混入した飲食物の経口摂取で感染します。
 さらに滞在先によっては条虫症の中の無鉤条虫症に罹患する可能性も高くなります。この無鉤条虫の幼虫は牛肉に感染しており、加熱不十分な状態で幼虫が寄生している牛肉を人が食べるとその人へ感染します。また、豚肉に有鉤条虫の幼虫が寄生していることがあり、やはり生や加熱不十分な状態で感染している豚肉を食べることで感染します。これらの寄生虫による感染を防止するには、熱帯や亜熱帯では加熱せずに飲食物を食べることを避けることが重要です。このことは寄生虫以外に細菌の感染症を防ぐ観点からも重要です。

経口感染以外の寄生虫病とその予防

 寄生虫には経口感染以外の経路で感染するものがあります。その代表的な寄生虫に住血吸虫があります。住血吸虫には大きく分けて日本住血吸虫、マンソン住血吸虫、ビルハルツ住血吸虫の三種類があり、いずれも淡水中でセルカリアと呼ばれる段階の幼虫が、ヒトの皮膚から感染し人の血管内で成虫になります。日本住血吸虫は東南アジア地域を中心に、マンソン住血吸虫はアフリカと一部の南米地域に、ビルハルツ住血吸虫はアフリカと一部の中近東地域に分布しています。
 日本住血吸虫とマンソン住血吸虫の成虫は門脈に寄生し、ビルハルツ住血吸虫の成虫は他の二種の住血吸虫と異なり、膀胱や肛門の静脈に寄生し、主に膀胱壁の静脈内に産卵します。そのため、症状として血尿が見られます。アフリカや中近東に滞在歴のある人で血尿が見られる場合には、このビルハルツ住血吸虫の感染症も考える必要があります。これらの住血吸虫症を防止するには、流行地では河川や湖沼で泳がないことです。