特集

プロフェッショナルに訊く

総合的な防虫管理システムの構築

イカリ消毒株式会社 
大音 稔

1. なぜ昆虫の異物混入は減らないのか?

今日、ほとんどの食品工場で何らかの防虫対策を取り入れており、PCO業者の防除技術も防除機器も年々進化している。しかしながら、昆虫類による事故は減少していない。その理由として考えられることとして、以下の4点が挙げられる。

  • 昆虫類は短期間で爆発的な繁殖が可能であり、繁殖する根本がある限りすぐに元の状態に戻る(薬剤や機材による殺虫・捕獲は一過性の対応にしかならない)。
  • 多くの昆虫類は移動能力が高く、特定の場所に止まるとは限らない。
  • 昆虫類は種類によって生息する条件などが変わるため、対策・対応も変えなければ効果が出ない。

このような状況を打破するために、小手先の防虫対策ではなく、昆虫類の生態(図1)をよく理解したうえで、総合的な防虫管理システムの導入を工場全体で進めていくことが必要である。

〈図1 工場内で問題になりやすい主な昆虫類とその特徴〉
区分要因名称備考
内部発生
可能昆虫
飛翔性湿潤環境チョウバエ類汚れた水域から発生し、内部発生が可能である
ノミバエ類腐敗動植物質から発生し、内部発生が可能である
ショウジョウバエ類腐敗(発酵)植物質から発生し、内部発生が可能である。発酵臭に誘引される
ニセケバエ類腐敗植物質から発生し、内部発生が可能である
ハヤトビバエ類腐敗動植物質から発生し、内部発生が可能である
菌食チャタテムシ類カビをエサとして発生する
ハネカクシ類食性は多様なものが多いが、菌食性のものも存在。代表的な土壌生物で湿潤条件を好む
ヒメマキムシ類カビなどから発生する。一部に不明なものもあり
乾燥環境シバンムシ類小麦や小麦を原料を加工品で乾燥したものを好み、粉溜まりなどで内部発生する
カツオブシムシ類乾燥動植物質を好む。乾燥貯蔵食品(原料)を扱う場所で内部発生する
ゴミムシダマシ類コクヌストモドキが有名。小麦粉や小麦加工品を食害
ヒラタムシ類ノコギリヒラタムシやカクムネヒラタムシが代表。粉体加工品を食害
ガ類乾燥植物質を好み、貯蔵食品の害虫として著名(ノシメマダラメイガなど)。内部発生可能
歩行性湿潤環境ゴキブリ類代表的な屋内害虫。住処として壁や機械のわずかなすき間など狭い空間を好む
菌食チャタテムシ類(無翅)カビなどから発生する。ホコリだまりなどの一見乾燥した環境にあるカビからの発生も多い
その他ダニ類多くは屋外性だが、屋内でホコリだまりや食品などに発生する種類もいる
外部侵入
性昆虫
飛翔性光・気流ユスリカ類渓流から都市の河川まであらゆる水域から発生する。ときに大量発生することがある
クロバネキノコバエ類緑地などから発生する迷入昆虫、まれに内部発生することもある
アブラムシ類緑地(畑地)などから発生する迷入昆虫
臭いイエバエ類炭水化物の腐敗・劣化した臭いに誘引され、好んで屋内に侵入する種類もいる
ニクバエ類タンパク質を中心にした腐敗物臭によく集まる
クロバエ類タンパク質を中心にした腐敗物臭によく集まる
歩行性その他アリ類多くは屋外性だが、エサや隠れ家を求めて、屋内に侵入することがある
ゲジ・ムカデ類ほとんどは屋外に生息。隠れ家を求めて迷い込んだり資材と共に持ち込まれることが多い
クモ類屋外性のものが普通だが、エサや隠れ家として屋内を好んで生息する種類もいる

2. 総合的な防虫管理システムの構築

総合的な防虫管理システムは、4つの要素から構成される。

①工場内で侵入・発生の危険性を評価する診断調査
②調査結果に基づく初期改善と日常管理の決定
③必要な力量に見合う教育訓練
④システムの安定化に向けた検証の仕組み

2.1 工場内で侵入・発生の危険性を評価する診断調査

診断調査はすべてのスタートであり、最も重要な事項といえる。調査が不十分だと、「昆虫の発生が起こってからはじめて危険に気づく」ことの繰り返しとなり、いわゆるモグラ叩き状態となってしまう。
以下に、診断調査を行ううえでのポイントをあげる。

(1)事前準備

昆虫類対策の場合、正確な調査・分析を行うためには事前準備が重要である。事前に必要な情報は以下の通り。

  • 過去のモニタリングデータを整理したもの(各製造室の問題を洗い出す)
  • 問題となっている昆虫類の情報(生態、発生時期)
  • 図面(排水系統、機械配置、動線、給排気が記載されている図面が望ましい)
  • 防虫管理に係るルール、記録類(清掃等)

これらの情報と自社の昆虫類に対する防御力を加味し、診断調査の設計(確認すべき重点ポイントや調査ツールの選定)を行うことで正確な調査が可能となる。

(2)診断調査

事前準備で設計した内容に基づき、診断調査を実施する。

  • 現場ヒアリング(ルールの理解度、役割分担)
  • 清掃状況と清掃の出来あがり状態
  • 工場休止時にしか確認出来ない情報収集(機械内部、ダクト内部等)

この調査結果から得られた情報(発生可能昆虫・発生可能時期)を図面に落とし、「昆虫類危害地図」を作成しておくと、予め管理するべきポイントが明確になる。この危害地図をルール作成やルール見直しの話し合い等に上手く活用出来れば、先ほど述べた「昆虫の発生が起こってからはじめて危険に気づく」モグラ叩き状態を防ぐことが出来る。(図2)

〈図2 昆虫危害地図(例)〉
昆虫危害地図(例)

(3)問題の本質(真の要因)を考える

調査結果から明らかになった問題を表面的に改善しただけでは、対症療法に過ぎない。目に見える現象(問題)を見つけることだけでなく、その現象に至った要因、つまり「何故このようなことが生じたのか?」を追究することが極めて重要なのである。

2.2 調査結果に基づく初期改善と日常管理の決定

2.2.1 清掃や構造改善による原状回復(初期改善)

診断調査の結果、あまりにも多くの問題が明確になった場合は、優先順位を設け、清掃や構造改善など初期改善を行っていくと、その後のシステム構築がやりやすくなる。
初期改善の方法としては、下記の2点が一般的である。

  • 減数処理(薬剤処理、大掃除的清掃、一斉清掃)
  • 施設設備の強化、見直し(ハード面が極端に弱くソフト面からの補填だけでは管理が困難な場合、防除設備の導入や施設の改善を行う。)
2.2.2 ルール作りの要点

診断調査後、昆虫類危害地図などの結果に基づいて、工場の欠点やクセを反映した管理のルールを決定する。
このルール作りで注意を要する点は、完璧なルール・理想的な決め事にこだわらないことである。迷った場合は、ルールを仮決めして、運用をスタートさせるべきである。行動を始めた段階ではルールの変更は当たり前のことと考えて、落ち着くまでは何度も見直しを行い、現実にあったルール作りを心がけるべきであろう。

2.3 必要な力量に見合う教育訓練

これまで述べてきたように昆虫類の防除システムの構築には、非常に多くの情報が必要である。工場の規模が大きくなれば、社内でこの情報を処理する管理者・責任者のエキスパート化も必要になってくるであろう。また、ほとんどすべての従事者が有害生物管理に関係していると言ってよく、それぞれの役割に応じた教育・訓練の重要性は高い。(図3)
これらの知識を組織の知識・個人の能力に変換することが大事であり、その手段として教育訓練システムを構築することが必要となる。

〈図3 力量に見合う教育訓練〉
一般従事者防虫担当者防虫管理者
ステップ1ステップ2ステップ3
役割 決められたルールを守る 現場で防虫管理に係る業務(捕虫器の点検、問題の改善(清掃や補修))を中心になって行う 防虫担当者を指導し、現場の改善状況などの確認を行う。 防虫管理全般の計画立案、見直しを専門業者と話し合いながら実施する。
力量 ★ルールとルールの目的を知る
★有害生物管理に興味をもつ
★防虫管理の原則と要点の理解
★自社工場で捕獲される昆虫とその生態を理解している
★ステップ1の知識を活かし、現場を運営できる ★モニタリングデータの解析が出来る
★現場での危害分析ができ、再発防止に繋げることができる
必要な知識
と研修内容
○工場で捕獲される昆虫類の基礎知識【座学:Q&A方式】
○工場内での昆虫類危険箇所を知る【座学】
・危険個所とルールの関係
○防虫管理の原則と要点について理解する【座学】
・バリア機能
・誘引源コントロール
・発生源コントロール
・サニタリーデザインとサニテーション
○工場で捕獲される昆虫類の基礎知識【座学・同定演習】
・昆虫危害地図の理解
・工場で捕獲される昆虫類の簡易同定
・工場で捕獲される内部発生昆虫の生態
○ステップ1の知識を現場で運用する
【現場研修:トレーニングオーディット】
○再発防止の考え方【座学・ワークショップ】
○モニタリング結果の活用について【ワークショップ】
修了の条件 ・アンケートへの記入 ・ステップ1修了テスト合格
・現場同行3回以上
・ステップ2修了テスト合格(従事者へのヒアリング含む) ・ステップ3修了テスト合格(演習問題)

2.4 システムの安定化に向けた検証の仕組み

ルールを作って教育を施し、システムの基礎が構築できても、検証の仕組みがないとなると、いずれそのシステムは崩壊する。
検証には予定の効果が得られているかどうかを「評価」する活動(昆虫類の捕獲データの評価)とルールの遵守状況を確認する「監査」の2種類がある。昆虫類の管理システムの検証では両者を同時に実施する必要がある。

2.4.1 昆虫類の捕獲データ(モニタリングデータ)の評価

昆虫類の侵入・生息状況を監視(モニタリング)することで、防除システムのバランスの崩れを知ることができる。そのために、工場内にはモニタリングの目的に応じたトラップ(ライトトラップや粘着トラップ)を適切に配置する必要がある。
昆虫類のモニタリングデータの分析から図のような3つの評価が可能になる。(図4)

〈図4 昆虫類モニタリングデータの評価〉
昆虫類モニタリングデータの評価

即時的評価は短期間のルール実施の効果判定を良く示し、相対的評価は防御力全体の評価に対し有用である。絶対的評価は工場の管理システムが安定してくれば、工場ごとの特定の指標としても役立つ。
ここで注意しておきたいのは、モニタリングデータに振り回されてはいけないという点である。モニタリングを行っている多くの工場が陥っていることであるが、モニタリングデータを重視しすぎるあまり、いつしかモニタリング結果の数値を減少させることが目的となり、防虫対策の本来の目的であるはずの「昆虫の製品への混入を減らす・なくす」を見失っているケースがよく見受けられるのである。モニタリングはあくまでも検証の一要素であり、これだけで防虫管理全般の良し悪しを評価できるものではないということを忘れてはならない。

2.4.2 現場監査の考え方と会議運営

総合的な防虫管理システムは、他の衛生管理(清掃・洗浄、機械メンテナンス、施設保全、原材料管理など)との関連性も高く、どこまでが防虫管理の範疇なのか判断がつかないことが多い。むしろ、独立して実施できないものと割り切り、防虫管理システムの現場監査を総合的な衛生監査の一部と捉えて実施することを薦める。
この現場監査を、問題の改善確認(問題の消し込み)と誤解している工場も少なくない。もちろん問題の改善は必要であり、問題を消し込むことで満足感を得ることはできるが、それだけでは「モグラ叩き的改善活動」から脱することはできない。問題解決に近づけるためには、確認された様々なデータを題材にそれぞれの立場で問題の原因や対策の効果を相互確認する会議(検証会議)を持つことが絶対条件である。改善を停滞させないためにも現場管理者が集まる会議を必ず開催し(月1回程度)、管理状況の相互把握に努めるべきと考える。
だが実際には、防虫対策の「検証会議」が行われている工場は少なく、「PCO業者からの報告会」に終始している場合がほとんどである。“防虫管理はPCO業者の仕事”と誤解される要因でもある。PCO業者の報告は会議へのインプット情報の一つであり、工場の活動に反映させることが重要なのである。