特集

月刊「クリンネス」より

海外赴任に伴う感染症対策

シリーズ⑧ マラリア 
/独立行政法人 国立国際医療研究センター研究所 熱帯医学・マラリア研究部 部長
狩野繁之

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月刊クリンネス

 マラリアは、ハマダラカの刺咬でマラリア原虫がヒトからヒトに感染して生ずる疾患です。海外赴任に伴い、もっとも気をつけなければならない感染症がマラリアといえます。感染と発症の予防、早期の診断と適切な治療が重要です。以下に概説します。

マラリアの疫学

 マラリアは、世界の熱帯・亜熱帯地域を中心に、およそ100か国に流行しています。年間2億人以上の患者が発生し、死亡者数はおよそ100万人と報告されており、世界最大の感染症と言っても過言ではありません。一方、近年の日本の輸入マラリア(海外で感染して帰国後に発症するマラリア)患者数は、年間50〜100人です。
 ヒトのマラリアは、熱帯熱、三日熱、四日熱、卵形マラリアの四種類ですが、2004年以来、サルマラリア原虫の一種(Plasmodium knowlesi)が,東南アジアの広い地域でヒトに感染していることが報告され、第五のヒトマラリアと考えられ始め注意が必要です。

マラリアの予防

 短期の海外赴任者には、「個人的防蚊手段」がマラリア感染予防法として最もすすめられます。蚊の吸血を避けるには、戸外では長袖長ズボンを着用し、肌の露出部をできるだけ少なくすること。また、昆虫忌避剤を肌に塗布することが効果的です。夜間屋内で就寝するときは、網戸や蚊帳、電気(電池)式蚊取器、蚊取線香、殺虫剤スプレーの使用が推奨されます。エアコン付きの密閉した部屋に宿泊するのも望ましいことです。
 高度流行地域に7日以上滞在する海外赴任者には、「予防内服薬による発症予防」が適応となることがあります。わが国では、メフロキン(商品名・メファキン「ヒサミツ」錠275)を予防薬として用いることができます。流行地に入る1〜2週間前から、週に1錠の服薬を開始し、流行地を離れてからも4週間続ける必要があります。悪心・嘔吐、めまい、などの副作用が知られていますのでご注意ください。
 赴任地でマラリアを疑う発熱があり、速やかに医療機関を受診できないとき、緊急避難的に抗マラリア薬を海外赴任者の判断で服用することを「スタンバイ緊急治療」と呼びます。この場合でも、服薬後できるだけ早く医師の診断をあおぐ必要があります。

マラリアの診断・治療

 マラリアの確定診断は、ギムザ染色血液塗抹標本を顕微鏡で観察して原虫を同定することです。ろ紙イムノクロマトグラム迅速診断キットも有用です。
 そしていま、世界のマラリア対策上で最も大きな問題は、薬剤耐性マラリアの出現と拡散です。適切な抗マラリア薬の選択には、専門家のアドバイスが必要です。
 特に熱帯熱マラリアは病状の進行が極めて速く、迅速かつ適切な診断・治療が施されないと、脳性マラリアと呼ばれる昏睡状態に陥るなど、極端に重症化して死亡します。
 マラリアの治療において、アルテミシニン誘導体を基盤とした混合療法が世界標準となりつつあり、薬剤耐性マラリアおよび重症マラリアに極めて有効ですが、わが国での使用は限られています。ぜひ専門家にご相談を。